第6節「全覚醒(下)」
金色の光が、聖療院全体を包み込んでいた。
暖かい。
優しい。
なのに。
誰もが息を呑んでいた。
「熱が……下がってる……」
「呼吸が戻った……!?」
患者たちが次々に目を見開く。
咳が止まり。
苦しそうだった表情が和らいでいく。
まるで。
“奇跡”そのものだった。
「……ありえない」
神官の一人が呟く。
通常の回復魔法ではない。
範囲も。
規模も。
精度も。
全部が異常だった。
「……世界改変級」
ルナが静かに言った。
その声には、わずかな緊張が混ざっている。
「ここまでとは……」
フレアですら笑っていなかった。
ただ、呆然とシャーロットを見ている。
「……っ」
シャーロットの身体は、淡い光を纏っていた。
金色の髪が、ふわりと浮く。
瞳の奥には、揺らめく光。
以前とは違う。
明らかに。
“人間の枠”から外れ始めていた。
「助ける……」
小さな声。
「まだ……届くから……」
その瞬間。
さらに光が広がる。
聖療院の外。
待機列。
廊下。
苦しむ患者たちへ。
淡い金色が降り注いでいく。
「なんだこれ……」
「身体が軽い……!」
混乱と驚愕。
誰も理解出来ない。
でも。
確かに命が繋がっていた。
「シャーロット!!」
エリシアが叫ぶ。
だが。
少女の反応が薄い。
意識が遠い。
「まずい!」
マリアの顔色が変わる。
「持っていかれる!」
「……っ」
レオンが一歩前へ出た。
「シャーロット!」
低い声が響く。
「もう止めろ!」
その言葉に。
シャーロットの瞳が、ほんの少し揺れた。
「……でも」
か細い声だった。
「まだ苦しそうな人……いる……」
泣きそうな顔。
助けたい。
ただその想いだけで動いている。
「十分だ」
レオンが静かに言う。
「これ以上は、お前が壊れる」
「……っ」
シャーロットの身体が大きく揺れた。
限界だった。
それでも。
まだ光は止まらない。
「シャーロット!!」
エリシアが飛び込む。
ぎゅっと抱き締めた。
「もういいです!」
涙混じりの声。
「あなたが壊れる方が嫌なんです!」
「……」
シャーロットの瞳が揺れる。
その時。
周囲から、小さな声が聞こえた。
「……ありがとう」
「助かっ……た……」
患者たちだった。
苦しそうだった人たちが、涙を流している。
「聖女様……」
感謝の声。
祈る声。
暖かな空気。
「……ぁ」
シャーロットの肩が震える。
届いた。
ちゃんと。
届いた。
その瞬間。
張り詰めていた力が、一気に崩れた。
「っ――」
光が砕けるように散る。
そして。
シャーロットの身体から力が抜けた。
「シャーロット!!」
エリシアが慌てて抱き止める。
少女の意識は、もうなかった。
静まり返る聖療院。
誰も言葉を失っている。
奇跡だった。
だが同時に。
誰もが理解してしまった。
この少女はもう――
普通の“聖女”ではない。




