第6節「家族みたい」
その日の診療終了後。
聖療院には、ようやく静かな時間が戻ってきていた。
「お疲れさまでしたー!」
「薬品棚閉めますね!」
修道女たちが片付けを始める。
昼間の慌ただしさが嘘みたいだった。
「……ふぅ」
シャーロットは椅子へ座り込み、小さく息を吐く。
「今日はちゃんと休憩した」
ルナが静かに言った。
「えへへ……ちょっとだけね」
「ちょっとじゃない」
「前よりマシ」
珍しく褒められた気がして、シャーロットが少し笑う。
その時。
「ごはん出来たよー!」
フレアの元気な声が響いた。
「……え?」
振り向く。
いつの間にか、奥の休憩室から良い匂いが漂っていた。
「フレア、料理出来たの?」
「失礼な!?」
ぷんすか怒っている。
「一応ドラゴンなんだけど!?」
「それ料理関係あるの……?」
「気合い!」
全然関係なかった。
マリアが苦笑する。
「まあ味は悪くないよ」
「ほんと!?」
「普通に食べられる」
「褒め方ぁ!」
騒がしい。
でも。
その空気が少し心地いい。
テーブルへ並べられたのは、簡単な煮込み料理だった。
パン。
温かいスープ。
少しだけ豪華な夕食。
「こういうの久しぶりかも」
シャーロットがぽつりと呟く。
「皆でご飯食べるの」
その言葉に。
少しだけ空気が静かになった。
シャーロットには、こういう時間が少なかった。
家族団欒。
帰る場所。
当たり前みたいな時間。
「……」
エリシアが静かにスープを置く。
「熱いので気をつけてください」
「ありがと」
マリアは向かい側へ座りながら、小さく笑った。
「随分賑やかになったねぇ」
「前はもっと静かだった?」
「静かというか、殺伐としてた」
「うわぁ……」
否定できない気がした。
聖療院が出来る前。
皆、余裕がなかった。
目の前を回すだけで精一杯だった。
でも今は違う。
問題は山積み。
忙しい。
それでも。
少しだけ、“人らしい時間”が増えていた。
「……家族みたい」
ぽつり、とシャーロットが呟く。
一瞬、空気が止まる。
「……っ」
エリシアが少し目を瞬かせた。
フレアはきょとんとしている。
ルナは静かにシャーロットを見た。
「……あ」
シャーロットが慌てる。
「ご、ごめん! 変な意味じゃなくて――」
「別に変ではない」
ルナが静かに言った。
「え?」
「私は嫌いじゃない」
静かな声だった。
フレアもにっと笑う。
「いいじゃん! 家族っぽいの!」
「フレアは距離感近すぎるんだよぉ……」
「えー?」
そのやり取りを見ながら。
マリアは静かに目を細めた。
「……そうだねぇ」
ぽつり、と零れる。
「案外、間違ってないかもしれない」
シャーロットが少し目を見開く。
「ここにいる皆」
「放っておくと無茶する子を止めて」
「支えて」
「一緒に悩んで」
マリアが小さく笑った。
「家族みたいなものかもね」
その言葉に。
胸の奥が少し熱くなる。
居場所。
帰る場所。
支えてくれる人。
昔の自分には、なかったもの。
「……えへへ」
自然と笑みが零れる。
窓の外には、静かな夜空。
聖療院はまだ小さい。
未完成で。
問題だらけ。
それでもここには確かに、“誰かと支え合える温かさ”が生まれていた。
少女は今――
初めて、“帰って来られる場所”を見つけ始めていた。




