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第6節「倒れた少女」

その日の帰り道。


 シャーロットの足取りは、ひどく重かった。


 夕日はもう沈みかけている。


 空は薄暗く、冷たい風が吹いていた。


「……さむい」


 小さく呟く。


 身体が熱いのに、寒かった。


 頭もぼんやりする。


 でも今日はたくさんの人が少し楽になった。


 それだけで、少し嬉しかった。


「リナちゃん、笑ってたなぁ……」


 ぽつりと漏らす。


 苦しそうだった子供が、最後には少し笑っていた。


 それを見ると、疲れも忘れてしまう。


 だから困るのだ。


「……ちゃんと、ご飯食べなきゃ」


 そう思いながら歩く。


 けれど財布の中には、ほとんど何も入っていない。


 見返りを受け取らないことも多かった。


 受け取れなかった、の方が近いかもしれない。


 だって皆、苦しそうだから。


「うーん……」


 ふらり、と身体が揺れる。


 壁へ手をついた。


 息が苦しい。


 視界も霞む。


「……ぁ」


 足に力が入らない。


 でも小屋までは帰りたかった。


 少し休めば大丈夫。


 きっと明日にはまた動ける。


 そう思っていた。


 その時だった。


「……おい」


 低い声が聞こえる。


 ぼやけた視界の向こう。


 白い服を着た女性が立っていた。


 修道服。


 地方教会の修道女だった。


「こんなところで何を――」


 言葉が途中で止まる。


 シャーロットの顔色を見たからだ。


「っ、あなた……!」


「だ、大丈夫、です……」


 反射みたいに答える。


 でも全然大丈夫じゃなかった。


 一歩踏み出した瞬間。


 ぐらり、と世界が傾く。


「あ……」


 そのまま身体が崩れ落ちた。


「危ない!」


 修道女が慌てて抱き留める。


 軽かった。


 驚くほど軽い。


 痩せ細った身体。


 熱い額。


 荒い呼吸。


「ひどい熱……!」


 修道女は顔を青くした。


「誰か! 手伝ってください!」


 近くにいた人々が振り向く。


「あぁ、その子か」

「また無茶したんだな……」


 聞こえてくる声。


 修道女は眉を寄せた。


「知っているのですか?」


「スラムで人助けばっかしてる子だよ」

「最近ずっと休んでねぇ」


「……何を?」


「なんか、触ると楽になるんだ」


 その言葉に、修道女の表情が変わった。


「楽になる……?」


 腕の中のシャーロットを見る。


 眠るように意識を失っている。


 けれど。


 その手から、微かに光が漏れていた。


「……聖属性?」


 修道女が息を呑む。


 普通の回復魔法ではない。


 もっと柔らかい。


 もっと静かな光。


 まるで――。


「この子……」


 修道女はシャーロットを抱き直した。


「教会へ運びます」


「お、おい」


「このままでは危険です」


 強い声だった。


 周囲の人々は顔を見合わせる。


 やがて一人がぽつりと呟いた。


「……助けてくれてたんだ」

「あぁ」

「今度は、あの子の番だろ」


 その言葉に、修道女は少しだけ目を細めた。


 王都スラム。


 誰も見ようとしない場所。


 その片隅で。


 一人の少女が、今日まで誰かへ手を伸ばしていた。


 だから今度は。


 誰かが、その小さな手を取ろうとしていた。

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