第6節「役割分担」
聖療院の試験運用が始まって数日。
中央教会の空気は、以前より少しだけ変わっていた。
「軽症患者はこちらへ!」
「薬の説明しますね!」
「重症側、安定化お願いします!」
慌ただしさは変わらない。
でも。
以前の“全員が全部やる状態”とは違っていた。
「……流れてる」
シャーロットが小さく呟く。
患者の流れ。
役割。
対応。
少しずつ整理され始めている。
「当然だ」
レオンが書類を確認しながら言う。
「役割を分けたからな」
軽症患者は医療班。
薬や衛生管理も専属。
回復術師は安定化と重症側へ集中。
以前より、明らかに負担が分散されていた。
「でもこれ、すごいねぇ」
フレアが辺りを見回しながら言う。
「前よりバタバタしてない!」
「まだ全然足りない」
レオンは即答だった。
「人員不足も設備不足も変わっていない」
「辛辣ぅ……」
フレアが頬を膨らませる。
だが実際その通りだった。
聖療院はまだ小さい。
試験段階。
未完成。
問題は山ほどある。
「それでも前よりはマシだよ」
マリアが静かに言う。
「少なくとも、“誰か一人が潰れる”形じゃなくなってきた」
その言葉に。
シャーロットは少しだけ目を伏せた。
以前の自分なら。
多分、一人で全部抱え込もうとしていた。
でも今は違う。
「シャーロット先生!」
「は、はい!」
修道女に呼ばれる。
向かった先には、小さな女の子が座っていた。
腕へ包帯が巻かれている。
「いたい……」
「大丈夫だよ」
シャーロットがしゃがみ込む。
「ちょっと見るね」
以前より、身体の状態が細かく分かる。
傷の深さ。
炎症。
血流。
でも。
今は全部を自分だけでやらない。
「消毒お願いできますか?」
「はい!」
医療班が動く。
薬を準備する者。
包帯を替える者。
その間に、シャーロットは軽く安定化だけ行う。
以前なら、自分で全部やっていた。
「……」
女の子の表情が少し落ち着いていく。
「おねーちゃん、いたくない」
ほっとしたような声だった。
「えへへ、頑張ったね」
頭を撫でる。
その様子を見ながら。
レオンは静かに口を開いた。
「それでいい」
シャーロットが振り向く。
「……へ?」
「お前は“全部やる側”じゃない」
静かな声だった。
「重症制御」
「安定化」
「聖魔法支援」
シャーロットにしか出来ない部分へ集中させる。
それが今の聖療院だった。
「……」
シャーロットは少しだけ考え込む。
以前なら。
“全部助けなきゃ”と思っていた。
でも。
皆で分担した方が、結果的にもっと届く。
「……不思議」
ぽつり、と呟く。
「前より、ちゃんと周り見えてる感じする」
余裕が少し出来ていた。
一人で抱え込んでいないから。
「良い傾向だ」
ルナが静かに言う。
「前は無茶しすぎだった」
「うぅ……」
否定できない。
その時。
「先生ー!」
別の修道女が慌てて走ってきた。
「重症患者搬送されます!」
空気が変わる。
だが以前と違う。
誰が何をするか、もう決まっていた。
「医療班準備!」
「止血器具持ってきて!」
「安定化入ります!」
皆がすぐ動く。
シャーロットも深呼吸した。
「……行ってきます」
以前ほど、怖くない。
一人じゃないから。
聖療院はまだ小さい。
未完成。
問題だらけ。
それでも確かに。
誰か一人へ依存しない救い”が、少しずつ形になり始めていた。




