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第4節「小さな聖療院(上)」

  第4節「小さな聖療院」


 半覚醒。


 その言葉は、中央教会内へ静かに広がっていた。


「命を安定させたらしい」

「血流制御だとか……」

「本当に聖女なのでは……」


 噂は少しずつ広がる。


 期待も増える。


 だが。


「……無理だよぉ」


 シャーロット本人は、診療所の机へ突っ伏していた。


「頭くらくらする……」


 半覚醒以降、感覚が明らかに変わっていた。


 以前より細かく分かる。


 怪我。


 呼吸。


 脈。


 身体の状態。


 でも。


 情報量が多すぎる。


「だから言った」


 窓際からルナが静かに言う。


「無茶をするな」


「うぅ……」


 反論できない。


 その時。


 こつん、と机へ書類が置かれた。


「……へ?」


 顔を上げる。


 レオンだった。


「これ、は……?」


「新診療区画案だ」


 シャーロットが目を瞬かせる。


 図面だった。


 小規模施設。


 治療室。


 待機室。


 薬品保管庫。


 診察スペース。


「診療棟……?」


「違う」


 レオンが静かに言う。


「“聖療院”だ」


 その言葉に、部屋の空気が少し変わる。


「聖……療院?」


 聞き慣れない言葉だった。


「回復魔法だけでは限界がある」


 レオンは続ける。


「医療」

「衛生」

「診察」

「薬学」

「回復魔法」

「聖魔法」


 全部を組み合わせる。


「……」


 シャーロットは静かに図面を見る。


 大きくない。


 本当に小さい施設だった。


「試験運用だ」


 レオンが言う。


「まずは中央教会内で始める」


 マリアが静かに図面を覗き込む。


「……面白いこと考えるねぇ」


「現状、人が足りない」


 レオンの声は冷静だった。


「高位回復術師だけに依存すれば破綻する」


 それは、もう十分理解していた。


 届かない命。


 足りない人手。


 間に合わない現実。


「だから役割を分ける」


 レオンが図面へ指を置く。


「軽症は医療側」

「安定化は回復魔法」

「重症制御は聖魔法」


 全員を、シャーロット一人で見る必要はない。


「……」


 シャーロットは静かに図面を見つめる。


 それは今まで考えたことのない形だった。


 “自分が全部助ける”じゃない。


 “皆で救う”。


「……でも」


 シャーロットが小さく呟く。


「こんなの、本当に出来るのかな」


 すると。


「最初から完璧なものなど存在しない」


 レオンが即答した。


「まずは始めることだ」


 静かな声だった。


 その時。


「私は賛成だよ」


 マリアが笑う。


「医療知識を活かせるなら、かなり変わる」


 今までは回復魔法へ依存しすぎていた。


 だが。


 薬。


 衛生。


 診察。


 基礎医療だけでも救える命はある。


「シャーロット」


 マリアが静かに言う。


「“奇跡”だけじゃ続かないって話、覚えてるかい?」


「……うん」


「だから“続けられる形”が必要なんだ」


 その言葉が胸へ落ちる。


 届かなかった命。


 見えなかった場所。


 全部。


 “仕組み”が足りなかった。


「……」


 シャーロットは図面を見つめる。


 小さい。


 未完成。


 でも。


 もしかしたら。


 これは、“もっと遠くへ手を伸ばす”ための第一歩なのかもしれない。


「……やってみたい」


 小さく呟く。


 レオンが静かに目を細めた。


「そう言うと思った」


 フレアが横から覗き込みながら笑う。


「シャーロット、こういうの絶対乗るよねー!」


「うぅ、なんか言い方ぁ……」


 ルナは静かにその様子を見ていた。


 太陽みたいな少女。


 苦しそうな人を見ると、放っておけない。


 だから今。


 “自分一人では届かない場所”へ、手を伸ばそうとしている。


 小さな診療所。


 小さな仕組み。


 まだ未完成。


 でもそれは確かに。


 未来へ繋がる、小さな救いの始まりだった。

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