第2節「聖女就任」
聖女任命式当日。
中央教会大聖堂は、朝から厳かな空気に包まれていた。
白い大理石の床。
高い天井。
色硝子から降り注ぐ朝の光。
左右には神官や修道女たちが並び、その奥には王族席も設けられている。
中央には長い赤絨毯。
その先に、祭壇があった。
「……すごい」
控室で、シャーロットが小さく息を呑む。
今日は人が多い。
神官だけじゃない。
貴族。
王族。
中央教会関係者。
視線が集まっているのが分かる。
「緊張してる?」
フレアが後ろから覗き込む。
「してるよぉ……」
「顔硬い!」
「うぅ……」
その横で、ルナは静かに窓際へ立っていた。
「逃げるなら最後の機会だ」
「だから逃げないってば!」
シャーロットが慌てて抗議する。
エリシアは小さくため息を吐きながら、衣装の乱れを整えた。
「大丈夫です」
静かな声だった。
「あなたは、ここへ立つだけのことをしてきました」
その言葉に。
シャーロットは少しだけ目を瞬かせる。
診療所。
地方教会。
届かなかった命。
苦しかった現実。
全部無駄じゃなかったのだろうか。
「……」
胸へ手を当てる。
怖い。
でも。
逃げたくはなかった。
その時。
こんこん、と扉が叩かれる。
「時間です」
一瞬、空気が静まる。
「……行ってきます」
シャーロットが小さく息を吸う。
そして。
大聖堂の扉が開いた。
光が差し込む。
ざわめきが広がった。
「あの子が……」
「地方教会の」
「聖属性保持者……」
視線が集まる。
期待。
興味。
羨望。
様々な感情が混ざっていた。
「……っ」
シャーロットは小さく息を呑む。
でも。
足は止めない。
一歩。
また一歩。
赤絨毯を進んでいく。
その先。
王族席には第一王子アルベルトの姿があった。
真っ直ぐな視線。
優しそうな表情。
そしてその隣。
第二王子レオンが静かにこちらを見ている。
灰色の瞳は相変わらず鋭い。
でも。
以前ほど冷たくは見えなかった。
「……」
シャーロットは祭壇前へ辿り着く。
大司教が静かに立ち上がった。
「本日ここに」
「シャーロット・――を、聖女として正式任命する」
大聖堂が静まり返る。
差し込む光が、白い聖女衣装を照らした。
「彼女は地方教会において数多くの治療支援へ携わり」
「中央教会においても、その力と献身を示した」
静かな宣言が響く。
シャーロットは静かに聞いていた。
“献身”。
その言葉が胸へ少し重く落ちる。
苦しかったこともある。
悩んだこともある。
それでも。
助けたいと思った。
だからここにいる。
「……前へ」
大司教に促される。
シャーロットは一歩前へ出た。
その瞬間。
祭壇の聖石が淡く光り始める。
「……っ」
空気が変わった。
大聖堂全体へ、柔らかな光が広がっていく。
ざわめき。
「聖力反応……?」
「これほど……?」
神官たちが息を呑む。
シャーロット自身も驚いていた。
身体の奥が、温かい。
まるで何かが静かに目覚めていくみたいだった。
「……」
レオンが静かに目を細める。
アルベルトも驚いたように光を見ていた。
そして。
大司教が厳かに告げる。
「ここに、新たなる聖女の誕生を宣言する」
光が大聖堂を包み込む。
歓声ではない。
静かな、圧倒されたような空気。
その中で。
シャーロットはゆっくり目を開ける。
まだ実感はない。
でも。
もう戻れない。
少女は今――
正式に、“王国の聖女”となった。




