第6節「救う側も人間」
その日の診療所は、朝から慌ただしかった。
「次の患者さんどうぞ!」
「包帯足りますか!?」
「熱が高い方はこちらへ!」
王都で流行り風邪が広がり始めていた。
命に関わるほどではない。
だが患者数が多い。
診療所は朝から人で溢れていた。
「……すご」
シャーロットが小さく呟く。
椅子が足りない。
待機列も長い。
マリアは休みなく動いていた。
「ぼーっとするなー!」
「は、はいっ!」
慌てて薬草を運ぶ。
エリシアも患者整理で走り回っている。
そして。
シャーロットもまた、自然と動き続けていた。
「大丈夫ですか?」
「少し楽になりますからね」
不安そうな子供へ声を掛ける。
熱で苦しそうな老人へ回復魔法を使う。
少しでも安心できるように。
少しでも楽になるように。
「……」
だが。
昼を過ぎた頃には、シャーロットの顔色が少しずつ悪くなっていた。
「シャーロット」
「……だいじょうぶ」
エリシアが声を掛ける。
だが返事に元気がない。
「休んでください」
「まだ平気……」
そう言いながら、次の患者へ向かおうとする。
その時。
ぐらっ。
「っ」
身体が傾いた。
「シャーロット!」
エリシアが慌てて支える。
顔色が真っ白だった。
「……あーあ」
マリアが小さく息を吐く。
「限界超えたねぇ」
「ご、ごめんなさい……」
シャーロットが弱々しく笑う。
だが。
その時だった。
「だから言った」
静かな声が落ちた。
診療所の窓。
そこへ黒髪の少女――ルナが座っていた。
「る、ルナ……」
「無茶をするな」
静かな怒りだった。
責める声ではない。
でも。
確かに怒っている。
「……ごめん」
シャーロットが小さく俯く。
その時。
ばたんっ!
「シャーロット倒れたってほんと!?」
勢いよく扉が開く。
赤髪の少女――フレアだった。
「うるさい」
「ルナは黙って!」
診療所の空気が一気に騒がしくなる。
だが。
二人とも、本気で心配しているのはすぐ分かった。
「もー、だから言ったじゃん!」
フレアがぷんすか怒る。
「頑張りすぎなんだって!」
「ぅ……」
反論できない。
だが。
「だって苦しそうだったし……」
シャーロットが小さく呟く。
診療所には患者が沢山いた。
待っている人もいた。
だから止まれなかった。
「知ってる」
フレアが真っ直ぐ言う。
「シャーロットが優しいのも知ってる」
その声は強かった。
「でもさ」
フレアは少しだけ眉を下げる。
「救う側まで倒れたら、皆悲しいよ」
「……っ」
シャーロットが言葉を失う。
考えたことがなかった。
助ける側は、助け続けるものだと思っていた。
でも。
「人間なんだから」
マリアが静かに言う。
「休まないと壊れる」
ルナも静かに頷いた。
「お前は、自分を軽く扱いすぎる」
「……」
診療所が少し静かになる。
シャーロットは布団を握りしめた。
苦しそうな人を見ると放っておけない。
でも。
自分が倒れたら。
心配する人がいる。
「……難しい」
ぽつり、と零れる。
本当に難しい。
すると。
ぽすっ。
「へ?」
フレアがシャーロットの頭へ軽く額をぶつけていた。
「ちょ、近い」
「だから覚えときな」
フレアがにっと笑う。
「救う側も人間!」
真っ直ぐな声だった。
その横で。
ルナも静かに言う。
「一人で全部やる必要はない」
シャーロットは少しだけ目を丸くする。
マリア。
エリシア。
ルナ。
フレア。
皆、自分を支えようとしてくれている。
“助ける側”の自分を。
「……ありがと」
小さく呟く。
その言葉に。
フレアは満足そうに笑い。
ルナは静かに目を細めていた。
診療所の窓から、暖かな夕日が差し込んでいる。
そしてシャーロットは少しずつ。
支えられることも必要なのだ”と、学び始めていた。




