第5節「太陽と月と炎」
夜。
森の中は静かだった。
木々の隙間から月明かりが差し込んでいる。
「……平和」
シャーロットがぽつりと呟く。
最近は、こうして三人でいる時間も増えていた。
ルナは木の上。
フレアは地面へ寝転がっている。
そしてシャーロットは、その真ん中だった。
「中央より落ち着く」
シャーロットが苦笑する。
「当然」
ルナが静かに答える。
「向こうは堅苦しい」
「ルナが人嫌いなだけじゃない?」
「否定しない」
即答だった。
フレアが吹き出す。
「あははっ! 相変わらず!」
その笑い声が森へ響く。
賑やかだ。
でも嫌な騒がしさじゃない。
「……不思議」
シャーロットが空を見上げながら呟く。
「なにが?」
フレアが寝転がったまま聞く。
「二人といると、なんか安心する」
素直な言葉だった。
中央教会では、“ちゃんとしなきゃ”が先に来る。
診療所でも、“頑張らなきゃ”を考える。
でも。
ルナとフレアの前では違う。
気を張らなくていい。
自然に笑える。
「……お前は」
ルナが静かに言う。
「一人で抱え込みすぎる」
「また言われたぁ」
シャーロットが苦笑する。
「事実」
「でもねー」
フレアがごろんと転がりながら口を挟む。
「シャーロットって、ほっとけないんだよ」
「へ?」
「苦しそうな人いたら、絶対行くじゃん」
「……うん」
「太陽みたい」
その言葉に。
シャーロットがきょとんとする。
「太陽?」
「そ!」
フレアが指を差した。
「勝手に周り照らしてる感じ!」
「そ、そんな大げさな……」
シャーロットが慌てる。
だがフレアは真面目だった。
「実際そうだよ?」
ぽつり、とルナも言う。
「お前は、人を安心させる」
「……」
「だから皆、お前を見る」
静かな声だった。
シャーロットは少しだけ俯く。
そんな風に考えたことはなかった。
ただ。
苦しそうな人を見ると放っておけないだけ。
「じゃあルナは?」
シャーロットが聞く。
「月!」
フレアが即答した。
「静か! 暗い! 夜!」
「喧嘩か」
「違う違う!」
フレアが笑う。
「でも落ち着くじゃん?」
その言葉に。
シャーロットは小さく頷いた。
「……うん」
ルナは静かだ。
あまり喋らない。
でも。
隣にいると息がしやすい。
夜空みたいに、肩の力が抜ける。
「で、私は炎!」
フレアが胸を張る。
「自分で言うんだ」
「当然!」
シャーロットが吹き出した。
「ふふっ」
「だって私、熱いし!」
「うるさいだけ」
「ルナぁ!?」
すぐ言い合いが始まる。
でも。
その空気が妙に心地良かった。
太陽みたいな少女。
月みたいな龍。
炎みたいな龍。
三人並ぶと、不思議とバランスが取れていた。
「……なんか家族みたい」
シャーロットがぽつりと呟く。
一瞬。
空気が止まる。
「……家族」
ルナが小さく繰り返す。
フレアも少しだけ目を丸くした。
龍にとって、その言葉は軽くない。
でも。
「……悪くないかも」
フレアが笑った。
ルナも静かに目を細める。
シャーロットはそんな二人を見て、少し嬉しそうに笑う。
森には静かな風が流れていた。
中央教会では得られない時間。
頑張らなくていい場所。
支え合える居場所。
それはきっと。
これから先、シャーロットが壊れないための、大切な灯りになっていく。




