第4節「笑ってる方がいい」
祭りの翌日。
「……眠い」
診療所の机へ、シャーロットがぐったりしていた。
「当たり前だ」
ルナが静かに言う。
「遅くまで騒いでいた」
「うぅ……」
反論できない。
昨日は久しぶりに、何も考えず楽しんでしまった。
だから今日は少し気が抜けている。
「でも楽しかったぁ……」
へにゃっと笑う。
その顔を見て、フレアが満足そうに頷いた。
「それそれ!」
「へ?」
「その顔!」
フレアがびしっと指を差す。
「シャーロット、昨日みたいに笑ってる方が絶対いい!」
勢いが強い。
シャーロットは目をぱちぱちさせた。
「そ、そうかな?」
「そう!」
即答だった。
「中央来てから、ずっと頑張りすぎなんだよ」
フレアは椅子へどかっと座る。
「真面目ーな顔して」
「困ってる人見たら飛んでって」
「ずーっと気ぃ張ってる」
「……」
シャーロットは少し黙り込む。
否定できなかった。
「だって、やることいっぱいあるし」
「あるね」
「助けたい人もいるし」
「いるね」
「だから――」
「でもシャーロット、一人しかいないじゃん」
その言葉に。
シャーロットが静かに顔を上げた。
フレアは真っ直ぐ見ている。
「全部頑張ろうとしすぎ」
「……」
「疲れてる時くらい、遊んで笑ってればいいの!」
炎みたいな声だった。
マリアとも。
ルナとも違う。
もっと熱くて、前向き。
「でも、私だけ楽しむのって……」
シャーロットが小さく呟く。
苦しそうな人はいる。
頑張ってる人もいる。
だから、自分だけ休むのが申し訳なく感じる。
その時。
フレアが、ぐいっと顔を近づけた。
「シャーロット」
「ひゃ、ひゃい」
「笑ってる人と」
「ずっと苦しそうな人」
フレアがにっと笑う。
「どっちの方が、周りも元気になると思う?」
「……あ」
シャーロットが小さく息を呑む。
考えたこともなかった。
「人ってさ」
フレアは机へ頬杖をついた。
「案外、“楽しそう”につられるんだよ」
その時。
診療所の扉が開いた。
「先生ー、薬を――あれ?」
入ってきた患者が、きょとんとする。
そこには。
笑いながら騒いでいる少女たち。
妙に明るい空気。
「あっ、ごめんなさい!」
シャーロットが慌てて姿勢を正す。
だが患者は、ふっと笑った。
「いや、なんか元気出るねぇ」
「……へ?」
「楽しそうで良いじゃないか」
その言葉に。
シャーロットは少し目を丸くした。
フレアが横でどや顔している。
「ほらね?」
「うぅ……」
負けた気がした。
その時。
「……悪くない」
ルナがぽつりと呟く。
「え?」
「お前は、笑ってる方がいい」
静かな声だった。
シャーロットは少しだけ目を瞬かせる。
マリアは“壊れるな”と言った。
ルナは“休め”と言った。
そしてフレアは、“笑え”と言う。
全部少し違う。
でも。
全部、シャーロットを見て言ってくれている。
「……えへへ」
自然と笑みが零れた。
それを見て。
フレアは満足そうに笑い。
ルナは静かに目を細めていた。
診療所へ、暖かな昼の光が差し込んでいる。
そして少女は少しずつ。
誰かを支えるために、自分も笑っていていい”と覚え始めていた。




