第3節「祭り(下)」
祭りの夜は、まだ終わらなかった。
「次あっち!」
フレアが元気よく走っていく。
「ま、待ってぇ!」
シャーロットが慌てて追いかける。
王都の夜は賑やかだった。
灯り。
笑い声。
屋台の匂い。
中央教会とは全然違う空気。
皆、楽しそうに笑っている。
「……すごい」
シャーロットは辺りを見回した。
こんな風に遊ぶのは久しぶりだった。
スラム時代は、生きるのに必死だった。
地方教会では忙しかった。
中央へ来てからは、もっと余裕がなかった。
だから。
“何も考えず楽しむ”こと自体が新鮮だった。
「シャーロット、これ食べる?」
フレアが串焼きを差し出す。
「わ、美味しそう……!」
「一口あげる」
「えっ、いいの!?」
「そんな大げさな」
フレアが笑う。
シャーロットは恐る恐る齧った。
「……!」
目が丸くなる。
「おいしいぃ……!」
「でしょー!」
フレアが満足そうに胸を張る。
少し後ろでは、ルナが静かに歩いていた。
「ルナも食べる?」
「いらない」
「またそうやって!」
「人間の食事へ興味はない」
「絶対損してるよ!」
フレアが呆れたように言う。
だがルナは気にしない。
そのやり取りが、妙に自然だった。
「仲良いねぇ」
「「良くない」」
また同時だった。
一瞬沈黙して。
シャーロットが吹き出す。
「ふふっ」
フレアもつられて笑った。
「ほんと息ぴったり」
「不本意」
「私も!」
そんな風に騒ぎながら歩いていると。
「……あ」
シャーロットの足が止まる。
視線の先。
路地裏に、小さな子供が座っていた。
祭りの輪へ入れず、じっと屋台を見ている。
痩せた服。
空腹そうな顔。
「……」
シャーロットの表情が曇る。
足が自然とそちらへ向きそうになる。
その瞬間。
ぽんっ。
「へ?」
フレアが後ろから肩を叩いた。
「今日は祭り」
「……うん」
「シャーロット、今また“助けなきゃ”って顔してた」
図星だった。
シャーロットは小さく俯く。
「だって……」
苦しそうな人を見ると気になってしまう。
放っておけない。
それはもう癖みたいなものだった。
「優しいのはいいこと」
フレアが真っ直ぐ言う。
「でも今日は、シャーロットも楽しむ日」
「……」
「ずっと頑張ってるじゃん」
その言葉に。
シャーロットは少しだけ目を見開いた。
「だから今くらい笑ってなきゃ損!」
炎みたいな笑顔だった。
ルナは少し離れた場所から、そのやり取りを静かに見ている。
「……難しいよ」
シャーロットが小さく呟く。
「切り替えるの」
「慣れだって!」
「雑ぅ……」
フレアがけらけら笑う。
その勢いにつられて。
シャーロットも少し笑ってしまった。
「ふふっ」
「そうそう!」
フレアが満足そうに頷く。
「シャーロット、笑ってる方が絶対いい!」
その言葉は妙に真っ直ぐだった。
中央教会では。
“ちゃんとしなきゃ”ばかり考えていた。
でも今は違う。
笑って。
食べて。
騒いで。
普通の女の子みたいに過ごしている。
「……ありがと」
シャーロットが小さく呟く。
「ん?」
「連れてきてくれて」
フレアは一瞬きょとんとして。
それから、にかっと笑った。
「どーいたしまして!」
祭りの灯りが夜空を照らしている。
その中で。
シャーロットは少しずつ、“頑張るだけじゃない時間”を覚え始めていた。




