第2節「祭り」
「祭り?」
数日後。
診療所で薬草を分けていたシャーロットは、ぱっと顔を上げた。
「うん」
フレアが元気よく頷く。
「王都でお祭りやってるんだって!」
「……なんで普通にいるの」
エリシアが真顔で呟いた。
フレアはいつの間にか診療所へ出入りするようになっていた。
しかも馴染むのが異様に早い。
「細かいこと気にしなーい!」
「気にします」
エリシアは頭を抱えた。
正体不明。
距離感近い。
うるさい。
中央教会的にかなり問題人物である。
だが。
「シャーロット、行こ!」
フレアは全く気にしていなかった。
「えっ、でも……」
シャーロットが困ったように視線を泳がせる。
「今日は講義ないし、診療所も午前だけだろ?」
「そ、そうだけど」
「なら決まり!」
勢いが強い。
シャーロットが押されている。
「ルナも来るよね?」
「行かない」
即答だった。
「えー」
「人が多い」
「まあルナだしねぇ」
フレアは特に気にせず笑った。
その時。
「……行ってきなさい」
マリアがくすっと笑う。
「先生?」
「たまには遊ぶのも大事だよ」
エリシアも少し悩んだ後、小さく息を吐いた。
「……門限までには戻ってきてください」
「やったぁ!」
シャーロットの顔がぱっと明るくなる。
その笑顔を見て。
ルナは静かに目を細めていた。
夕方。
王都の祭りは賑やかだった。
「わぁ……!」
シャーロットが目を輝かせる。
屋台。
音楽。
笑い声。
色とりどりの灯り。
中央教会とは全然違う空気だった。
「すごい人ぉ……」
「迷子になるなよー?」
「子供扱いしないで!?」
フレアが笑う。
そのままシャーロットの手を引いた。
「ほらほら、あっち行こ!」
「わっ」
引っ張られていく。
焼き菓子。
串焼き。
飴細工。
見たことないものばかりだった。
「これ食べる?」
「わっ、美味しそう……!」
「じゃあ買お!」
勢いが凄い。
フレアは次々に屋台を回っていく。
シャーロットは完全に巻き込まれていた。
「はぐれる」
少し後ろを歩くルナがぼそっと呟く。
結局来ていた。
「ルナもなんか食べる!?」
「いらない」
「またそうやって!」
フレアが不満そうに頬を膨らませる。
でも。
シャーロットは楽しそうだった。
「……ふふ」
自然と笑っている。
中央教会では見せない顔。
それを見ながら。
ルナは静かに空を見上げた。
「……良い顔してる」
ぽつり、と呟く。
その時。
「シャーロット!」
「へ?」
フレアが振り返る。
そして。
ぽんっ。
シャーロットの額へ、小さく何かを押し当てた。
「わっ、冷たい!?」
見ると、氷菓子だった。
「食べてみ?」
シャーロットは恐る恐る舐める。
「……!」
目が丸くなる。
「おいしい!」
「でしょー!」
フレアが嬉しそうに笑う。
シャーロットもつられて笑った。
その笑顔は、今までで一番“普通の女の子”みたいだった。
笑って。
食べて。
驚いて。
楽しそうにしている。
「……」
ルナは静かにその姿を見ていた。
太陽みたいな少女。
そして。
炎みたいな少女。
二人が並ぶと、妙に明るかった。
祭りの灯りが夜を照らしている。
その中で。
シャーロットは、ようやく少しだけ。
“自分のための時間”を過ごしていた。




