第1節「赤龍」
夜風が静かに流れていた。
黒龍の背中の上。
シャーロットはぼんやり空を見上げている。
「……今日は星が多いねぇ」
「そうか」
ルナはいつも通り静かな返事をした。
こうして夜空を飛ぶ時間は、もう少しずつ日常になっていた。
中央教会で疲れて。
森へ来て。
空を飛ぶ。
それだけで、少し呼吸が楽になる。
「ふぁ……」
小さく欠伸をする。
「眠いなら帰るか」
「まだ大丈夫ぅ」
「信用できない」
「ひどい!?」
ルナの口元が少しだけ緩む。
その時だった。
――ゴォォォォッ!!
熱風が夜空を裂いた。
「きゃぁっ!?」
シャーロットが思わずルナへしがみつく。
次の瞬間。
赤い影が横を高速で通り抜けた。
炎。
巨大な翼。
夜空を焦がすような熱。
「……っ」
ルナの声が低くなる。
「ルナぁ!? な、なに今!?」
「……面倒なのが来た」
その直後。
赤い龍が大きく旋回し、二人の前へ降り立った。
巨大な赤鱗。
燃えるような金眼。
黒龍とは真逆の熱を纏っている。
「久しぶりじゃん、ルナ!」
明るい声が夜空へ響いた。
次の瞬間。
赤龍の身体が炎へ包まれる。
「えっ」
光が収まった時。
そこにいたのは、一人の少女だった。
鮮やかな赤髪。
吊り気味の瞳。
太陽みたいな笑顔。
年齢はシャーロットたちと同じくらい。
「人になったぁ!?」
「またそこ驚くのか」
ルナが呆れたように言う。
シャーロットは混乱していた。
黒龍だけじゃなかった。
赤龍までいる。
「おー?」
赤髪の少女がシャーロットを見る。
「なにこの子」
「人間」
「それは見れば分かる」
即答だった。
少女はじーっとシャーロットを見つめる。
距離が近い。
「わ、わぁ」
シャーロットが少し後ずさる。
「ふーん……」
赤髪の少女はにやっと笑った。
「ルナが人間連れてるとか超珍しいじゃん」
「勝手についてきた」
「ひどい!?」
シャーロットが抗議する。
赤髪の少女が吹き出した。
「あははっ! なにそれ!」
笑い方が明るい。
ルナとは真逆だった。
「で、名前は?」
「えっ、シャーロット!」
「シャーロットね!」
ぱっと笑う。
「私はフレア!」
元気よく名乗った。
炎みたいな子だった。
熱量が凄い。
「……うるさい」
ルナがぼそっと呟く。
「相変わらず暗いねぇ!」
フレアは全く気にしていない。
そのままシャーロットの肩へ腕を回した。
「うわっ」
「よろしくね、シャーロット!」
距離が近い。
近すぎる。
シャーロットがわたわたしていると。
ルナが静かにフレアの腕を外した。
「暑苦しい」
「はぁ!? 何それ!」
「事実」
火花が散りそうな空気。
でも。
どこか慣れている。
「仲良いんだねぇ」
シャーロットがぽつりと呟く。
「「良くない」」
即答だった。
しかも同時。
一瞬沈黙して。
シャーロットが吹き出した。
「ふふっ」
ルナが少し目を細める。
フレアはぱちぱち瞬きした後。
「あっ、シャーロット笑った!」
嬉しそうに言った。
「え?」
「中央来てから、そんな笑ってなかったでしょ?」
その言葉に。
シャーロットが少しだけ固まる。
フレアはあっけらかんと続けた。
「もっと笑ってる方がいいよ!」
炎みたいに真っ直ぐな声だった。
夜空に、赤い笑い声が響いていた。




