第6節「月の隣」
「……誰です?」
エリシアが警戒した声を出す。
当然だった。
いつの間にか窓の外に少女がいる。
しかも気配がほとんどなかった。
「ルナだよ!」
シャーロットが慌てて起き上がる。
「知り合い!」
「説明を求めます」
エリシアの目が真面目だった。
シャーロットは一瞬うっと詰まる。
“実は森で黒龍拾いました”とは非常に言いづらい。
「えっと、その……」
「言えないのか」
窓枠へ腰掛けたルナが静かに言う。
「うぅ、言い方ぁ……!」
マリアはそんな二人を見ながら、妙に落ち着いていた。
「……まあ、敵意はなさそうだねぇ」
「先生!?」
「こういう勘は当たるんだよ」
適当そうに見えて鋭い。
エリシアはまだ警戒していたが、ルナは特に気にしていない様子だった。
「シャーロット」
「なぁに?」
「帰るぞ」
「へ?」
シャーロットがきょとんとする。
「休めと言われただろう」
「……」
マリアとエリシアが同時にルナを見る。
完全に保護者みたいなことを言っていた。
「で、でもまだ夕方だし……」
「眠そうだ」
「ぅ」
図星だった。
ルナは静かにシャーロットを見つめる。
「お前は無理をする」
短い言葉。
でも責める響きはない。
ただ事実を言っている。
「……」
シャーロットは少しだけ困ったように笑った。
最近、周りから同じことばかり言われる。
マリア。
エリシア。
そしてルナ。
「人気者だねぇ」
マリアがくすくす笑う。
「うぅ……」
「良いことだ」
ぽつり、とルナが言った。
シャーロットが顔を上げる。
「一人で抱え込まなくていい」
静かな声だった。
その言葉に。
シャーロットは少しだけ目を丸くする。
中央教会では、“頑張らなきゃ”と思っていた。
役に立たなきゃ。
追いつかなきゃ。
助けなきゃ。
でも。
ルナは違う。
“頑張れ”ではなく。
“休め”と言う。
「……変なの」
シャーロットが小さく笑う。
「何が」
「ルナ、龍なのに」
「関係ない」
即答だった。
エリシアはそのやり取りを静かに見ていた。
この黒髪の少女。
不思議な存在だ。
だが。
シャーロットが明らかに力を抜いている。
それだけは分かった。
「……あなた」
エリシアが静かに口を開く。
「シャーロットの友人、なのですか?」
ルナは少しだけ考える。
友人。
龍にとって、あまり馴染みのない言葉だった。
だが。
「……多分」
小さく答える。
「多分なんだ!?」
シャーロットが抗議する。
ルナの口元が少しだけ緩んだ。
その空気を見て。
エリシアはほんの少しだけ肩の力を抜く。
完全には分からない。
怪しいところも多い。
でも。
この少女は、シャーロットを傷つける存在ではない。
それだけは感じた。
その時。
窓の外に月が見えた。
静かな夜。
白い月明かり。
ルナはその光を背負うように座っている。
「……月みたい」
ぽつり、とシャーロットが呟いた。
「何が」
「ルナ」
静かで。
冷たそうで。
でも隣にいると落ち着く。
そんな存在だった。
ルナは少しだけ目を細める。
「お前は太陽みたいだ」
「へ?」
「眩しい」
シャーロットがぽかんとする。
その横で。
マリアが静かに笑っていた。
太陽みたいな少女。
月みたいな龍。
その出会いが。
これから先、シャーロットを支える大きな光になることを。
まだ誰も知らなかった。




