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第4節「すれ違い」

# 第5章「正しい王子様」


## 第4節「すれ違い」


 数日後。


 中央教会では、小規模な炊き出し支援が行われていた。


 場所は王都外縁部。


 比較的貧しい区域だ。


「本日は第一王子殿下も同行されます」


 朝の準備中、神官がそう説明した。


 周囲が少しざわつく。


「視察だけではなく、実際の支援状況も確認されるそうです」


 立派なことだった。


 王族自ら現場へ来る。


 普通はなかなかない。


「……また緊張する」


 シャーロットが小さく呟く。


 エリシアが少しだけ苦笑した。


「殿下はあなたを怖がらせるような方ではありません」


「それは分かるんだけどぉ……」


 苦手なのだ。


 ちゃんとしすぎている人は。


 現地へ向かう。


 今日は中央の白い建物ではない。


 少し汚れた石畳。


 古い建物。


 痩せた人々。


 スラムほどではない。


 でも、裕福とは程遠い場所だった。


 シャーロットは周囲を見回す。


「……似てる」


 昔いた場所に少しだけ似ていた。


 炊き出しが始まる。


「順番に並んでください」


 修道女たちが配給を進める。


 アルベルトも住民へ丁寧に声を掛けていた。


「体調に問題はありませんか?」

「支援物資は足りていますか?」


 皆、感激している。


 王子自ら話を聞いているのだ。


「ありがとうございます、殿下……!」


「いえ。当然のことです」


 その姿は、本当に理想的だった。


 だが。


「……」


 シャーロットは列の端を見ていた。


 一人の老人が座り込んでいる。


 配給列へ並べていない。


 顔色も悪い。


「……あ」


 足が動く。


「シャーロット?」


 エリシアが呼ぶ。


 だが少女は老人のそばへしゃがみ込んでいた。


「大丈夫?」


「……悪いねぇ」


 老人は苦しそうに笑う。


「足が痛くて並べなくてな」


 シャーロットはすぐ周囲を見る。


 列は長い。


 皆、配給を待っている。


 その時。


「列を乱してはいけません」


 静かな声が落ちた。


 振り向く。


 アルベルトだった。


 周囲の空気が少し張り詰める。


「殿下……」


 エリシアもすぐ頭を下げる。


 アルベルトは怒っているわけではなかった。


 ただ真面目な顔をしている。


「特例を作れば混乱が起きます」


 落ち着いた声だった。


「支援は平等でなければならない」


 それは正しい。


 本当に正しい。


 皆が同じように待っている。


 一人だけ優先すれば不満も出る。


 だから秩序が必要。


「……でも」


 シャーロットが小さく呟く。


「この人、並べないよ?」


「……」


「痛そう」


 アルベルトは静かに老人を見る。


 それから周囲の列も見た。


 待っている人々。


 支援物資。


 全体の流れ。


 彼は全部を見ている。


 だからこそ。


「例外を認めれば、現場は崩れます」


 そう答えた。


 正しい判断。


 間違ってはいない。


 けれど。


 シャーロットは、ぎゅっと唇を噛んだ。


「……少しだけなのに」


 ぽつりと零れる。


「座る場所作るとか」

「先に持っていくとか」


 ほんの少し。


 少しだけ寄り添えば違うのに。


 その言葉に。


 アルベルトは初めて少し驚いた顔をした。


 そんな発想をしていなかった。


 彼は“全体”を見ていたから。


 その時。


「おい」


 列の後ろにいた男性が声を上げる。


「その爺さん、前から足悪いんだ」

「先に持ってってやればいいだろ」


 別の女性も頷く。


「そうだよ」

「別に文句言わないさ」


 空気が少し変わる。


 アルベルトが目を見開いた。


 秩序は崩れていない。


 むしろ。


 周囲が自然に支えようとしていた。


「……」


 シャーロットは老人の隣に座ったまま、小さく笑う。


「ほら、大丈夫だった」


 アルベルトはしばらく言葉を失っていた。


 平等。


 秩序。


 正しさ。


 それは必要だ。


 でも。


 目の前の少女は、“人の感情”を先に見ている。


 それが彼には、少し眩しく見えた。

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