第3節「金属嫌い 中」
三人が荷物を布で覆い終えると、周囲の空気は少しだけ落ち着いていた。
先程まで距離を取っていた若いエルフ達も、警戒を完全には解いていないものの、露骨には避けなくなっている。
「……本当に変な人間」
枝の上から誰かがぼそりと呟いた。
「また言われた」
シャーロットが苦笑する。
だが、今度の“変”は少しだけ空気が違った。
完全な拒絶ではない。
戸惑い混じりの興味。
そんな感じだった。
「人間は普通、怒る」
リーファがぽつりと言う。
「怒る?」
「“これは必要だ”って」
金属も。
道具も。
便利さも。
人間側には人間側の理由がある。
だから大抵は譲らない。
でも。
「嫌なんだよね?」
シャーロットが自然に返す。
「なら少し隠せばいいかなって」
その答えに、リーファが少し黙る。
周囲の若いエルフ達も静かだった。
たぶん。
こういう返答をする人間が珍しいのだ。
「……理解が早い」
エルンが小さく呟く。
「だって嫌なもの近くにあると落ち着かないでしょ?」
シャーロットは本当に普通の事として言っていた。
偉そうでもなく。
知識をひけらかすでもなく。
ただ相手に合わせようとしている。
セラフィナは静かに三人を見る。
その視線は、最初より少しだけ柔らかかった。
「……ルールは守る?」
「うん!」
シャーロットが即答する。
「火も大きくしない!」
フレアが慌てて言った。
どうやら自覚はあるらしい。
周囲で小さく笑いが漏れる。
「大火出しそう」
若いエルフの一人がぼそりと呟く。
「出さないよ!?」
フレアが抗議する。
でも誰も信じていない顔だった。
その時。
一人の若いエルフが、少し顔をしかめた。
「……っ」
「えっ」
シャーロットがすぐ反応する。
視線の先。
布を巻いたとはいえ、荷物の奥に小さな金属器具が少しだけ見えていた。
「あっ、ごめん!」
慌ててさらに布を被せる。
若いエルフは少し驚いた顔をした。
「……気づいた」
「大丈夫?」
「平気」
でも顔色は少し悪い。
シャーロットは小さく考える。
そして。
そっと薬草茶を差し出した。
「これ飲む?」
「……え?」
「落ち着くよ?」
その薬草茶は、元々この森の民から渡されたものだ。
若いエルフは戸惑ったようにセラフィナを見る。
セラフィナは静かに頷いた。
恐る恐る、一口。
「……」
若いエルフが少し目を瞬かせる。
「……飲み慣れてる味」
「そりゃそうだよ!?」
フレアが思わず突っ込んだ。
周囲から、小さな笑いが漏れる。
森の空気が、ほんの少しだけ和らいでいく。
シャーロットはその様子を見ながら、小さく笑った。
ちゃんと話せる。
ちゃんと伝わる。
それが少し嬉しかった。




