第2節「森の視線 中」
「歩いてたら来たって……」
枝の上の若いエルフが呆れたように呟く。
「いや、来ないだろ普通」
「来た」
フレアが真顔で返した。
さらに空気がおかしくなる。
森の民達が、小さくざわつき始めていた。
「人間だよな?」
「多分……」
「なんか違くない?」
ひそひそ声が聞こえる。
どうやら向こうも混乱しているらしい。
男性エルフは小さく額を押さえた。
「……お前達は、ここがどこか分かっているのか」
「森?」
シャーロットが首を傾げる。
「そこじゃない」
思わず即答だった。
周囲から小さく笑いが漏れる。
どうやらこの男性、真面目な性格らしい。
「ここは人間の領域じゃない」
「うん」
「普通なら近づかない」
「そうなんだ」
シャーロットは本当に今知った顔をしていた。
男性エルフは完全に困っている。
「……何故止まらなかった」
「木札?」
「そうだ」
「森って書いてあったから」
「警告だ」
「分かりにくいよぉ」
シャーロットが困ったように笑う。
その瞬間。
また枝の上から笑いが漏れた。
完全に空気が崩れ始めている。
「……変」
リーファがぽつりと言う。
「また言われた」
フレアが吹き出した。
男性エルフは静かに周囲を見回す。
皆、警戒はしている。
だが。
最初ほど張り詰めていない。
理由は単純だった。
この三人から敵意が全く感じられない。
それどころか。
「そのお茶、美味しかったよ!」
シャーロットが普通に薬草茶を掲げる。
こんな人間、見た事がない。
男性エルフは小さく息を吐いた。
「……名は」
「シャーロット!」
「フレア!」
「ルナ」
三人が順番に名乗る。
男性エルフは少し間を置いてから口を開いた。
「……エルン」
「エルンさん!」
「さん、いらない」
リーファと全く同じ反応だった。
「流行ってるの?」
フレアが真顔で聞く。
「違う」
エルンが即答する。
また周囲で小さな笑いが起きる。
どうやら。
完全に“危険な侵入者”という空気ではなくなっていた。
その時。
ふわり。
風が吹く。
同時に、エルンの表情が少しだけ変わった。
「……まずいな」
「えっ?」
「長老側に伝わった」
周囲のエルフ達が、一斉に静かになる。
さっきまでの空気が少しだけ引き締まった。
「怒られる?」
フレアが普通に聞く。
エルンは小さく空を見上げる。
「……多分、俺達が」




