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第1節「勝手に入国 下」

 焚火の火が静かに揺れる。


 森の夜は相変わらず静かだった。


 でも、今までとは少し違う。


 そこには“誰か”が居る。


 ちゃんと話せる相手が居る。


 それだけで空気が変わっていた。


「……その火」


 リーファが焚火を見る。


「ん?」


「小さい」


「森だからね」


 シャーロットが答える。


「大きいと危ないかなって」


 その言葉に、リーファが少しだけ黙った。


「……人間なのに」


「えっ」


「ちゃんと分かってる」


 どうやら褒められているらしい。


 フレアが小声で笑う。


「基準が森なんだね」


 リーファは静かに頷いた。


「昔、火を大きくし過ぎた人間が居た」


 その瞬間、空気が少しだけ変わる。


「森が燃えた」


 静かな声だった。


 怒っている訳ではない。


 でも。


 今でも忘れていない。


 そんな重さがあった。


「……そっか」


 シャーロットも静かに焚火を見る。


 人間側にも問題があった。


 王都で聞いた話は、本当だったのだろう。


「だから火は嫌い?」


 フレアが聞く。


 リーファは少し考えた。


「小さい火は平気」


 視線が焚火へ向く。


「暖かいから」


 その答えに、シャーロットが少し嬉しそうに笑った。


「よかった」


「……変」


「また!?」


 フレアが吹き出す。


 リーファ本人は、割と真面目に言っている気がした。


「普通、人間はもっと偉そう」


「そうなの?」


「うん」


 森の外で見てきた人間達は、違ったのだろう。


 命令。


 欲望。


 警戒。


 そういうものばかりだったのかもしれない。


「私達、旅してるだけだよ?」


 シャーロットが自然に言う。


「地方見たくて」


「薬草茶も気になったし!」


 フレアまで普通に会話へ混ざっていた。


 リーファは少しだけ困ったように黙る。


 たぶん。


 こういう人間は初めてなのだ。


「……長老達、困るかも」


「えっ」


「勝手に入ってきたから」


「ご、ごめんなさい……?」


 シャーロットが少し慌てる。


 すると。


 リーファの耳が、ぴくりと動いた。


「でも」


「?」


「ちょっと面白い」


 その言葉と同時に。


 ざわり。


 また森が揺れた。


 気配が増える。


「……あ」


 シャーロットが小さく声を漏らす。


 木々の奥。


 枝の上。


 遠くの影。


 今まで見えなかった気配が、少しずつ姿を見せ始めていた。


 長い耳。


 静かな視線。


 森の民達。


「うわ、増えた」


 フレアが普通に言う。


「見物」


 リーファが静かに答えた。


 どうやら。


 三人は完全に“珍しい旅人”扱いされているらしかった。

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