第1節「勝手に入国 中」
「入国って」
シャーロットが目を丸くする。
「えぇっ!?」
今さらだった。
少女は静かに頷く。
「かなり前から」
「えぇぇ……」
フレアがルナを見る。
「ルナ気づいてた?」
「なんとなく」
「なんとなくで済ませないで!?」
でも確かに、途中から空気は完全に変わっていた。
木札。
視線。
置かれていた果物や薬草。
全部、境界を越えた後だったのだろう。
「……普通、人間はもっと手前で止まる」
少女が静かに言う。
「そうなんだ」
「うん」
その返事は少し不思議そうだった。
まるで、
“なんでこの三人は普通に進んできたんだろう”
と本気で思っているみたいに。
「だって追い返されなかったし」
シャーロットが自然に言う。
少女が少し黙る。
「……」
「えっ、違った?」
「普通は、あれで帰る」
「木札?」
「うん」
フレアが吹き出した。
「説明不足すぎない!?」
少女の耳がぴくりと動く。
ちょっと不満そうだった。
「森の警告」
「いや分かりにくいって!」
シャーロットまで笑ってしまう。
でも。
なんとなく分かってきた。
この森の人達は、あまり強く押し出さない。
静かに距離を取る。
それで察してほしい文化なのだろう。
「……変な人達」
少女がぽつりと呟く。
「また言われた」
「だって普通じゃない」
「そうかなぁ?」
シャーロット本人には自覚が無い。
少女は少しだけ視線を下げる。
その時。
ぴたり。
視線がルナで止まった。
「……」
空気が少し変わる。
静かな緊張。
少女の表情がほんの少しだけ強張った。
「……竜」
小さな声だった。
フレアが目を瞬かせる。
「分かるんだ」
「森は敏感」
少女――リーファは静かに言った。
ルナは特に隠す様子もなく、静かに座っている。
「……怖くないの?」
シャーロットが小さく聞く。
リーファは少しだけ考えた。
「怖い」
「えっ」
「でも」
静かな金色の瞳が、ルナを見る。
「暴れる感じしない」
ルナは少しだけ目を細めた。
「暴れない」
「うん」
短いやり取り。
でも、それだけで少し空気が柔らかくなる。
その様子を見ながら、フレアがぽつりと呟く。
「なんか普通に喋ってるね」
「うん」
シャーロットも少し嬉しそうに笑った。
最初は未知の存在だった。
でも今は違う。
ちゃんと話せる。
ちゃんと笑える。
それだけで、少し安心していた。




