第6節「すれ違い 中」
木札を通り過ぎた後、森の空気はさらに変わった。
風の音が近い。
木々の匂いも濃い。
街道自体は続いているのに、まるで別の場所へ入ったみたいだった。
「なんかすごいね」
シャーロットが周囲を見回す。
大木が増えている。
枝葉も深く、空がほとんど見えない。
地面には柔らかな苔。
小さな花。
見た事のない植物も多かった。
「森って感じ」
フレアがぽつりと言う。
「今までも森だったけど」
「もっと森」
「語彙が消えた」
ルナが静かに返した。
三人で少し笑う。
その時だった。
ざわり。
森の奥で葉が揺れる。
シャーロットがそちらを見る。
でも、やっぱり姿は見えない。
「……居るねぇ」
「居る」
ルナも静かに頷いた。
見られている。
でも近づいてはこない。
その距離感が、逆に不思議だった。
「追い返されないんだね」
シャーロットがぽつりと呟く。
「観察中?」
フレアが適当に言う。
「多分」
ルナは真面目に返した。
しばらく歩くと、小さな水場が見えてきた。
岩の隙間から、澄んだ水が流れている。
「わぁ……」
シャーロットがしゃがみ込む。
水は驚くほど綺麗だった。
「冷たい」
指先を浸ける。
ひんやりして気持ちいい。
その時。
「あっ」
岩の上に、小さな包みが置かれているのが見えた。
「また?」
フレアが覗き込む。
布を開くと、中には細長い焼き菓子のような物が入っていた。
「えっ」
「森にもお菓子あるんだ」
フレアがちょっと嬉しそうになる。
ほんのり木の実の香りがした。
「……試されてる感すごい」
シャーロットが苦笑する。
でも。
不思議と嫌じゃない。
むしろ、“どういう相手か見られている”感じだった。
「食べる?」
フレアが既に食べる気だった。
「待って」
シャーロットが慌てて止める。
ルナは静かに焼き菓子を見る。
「毒はない」
「ほんと?」
「多分」
「その“多分”怖いんだけど!?」
フレアが突っ込む。
結局。
三人で少しずつ分ける事になった。
「……あっ」
シャーロットが目を丸くする。
「おいしい」
素朴な味だった。
甘すぎない。
木の実と草の香りがする。
でも不思議と落ち着く味だった。
「ほんとだ」
フレアも普通に食べている。
ルナは静かに頷いた。
その時。
ふわり。
また風が吹く。
葉が揺れる。
そして。
一瞬だけ。
遠くの木の上に、人影が見えた。
長い耳。
淡い髪。
でも、すぐに姿は消える。
「……逃げた」
フレアがぽつりと言う。
「いや、多分」
シャーロットが小さく笑う。
「様子見してるだけだと思う」
不思議だった。
まだ名前も知らない。
姿もちゃんとは見えない。
でも。
少しずつ距離が近づいている気がした。




