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第5節「使節団準備 下」

 正門前には、まだ慌ただしい空気が残っていた。


 だが先程までとは違う。


 今は。


 “王妃が森側へ近づいているかもしれない”


 という不安が全体へ広がっていた。


「いや本当に何してるんですか王妃殿下……」


 若い外交官が小さく頭を抱える。


「まだ確定ではない」


 側近が言う。


「だが否定材料も無い」


「怖すぎる……」


 外交官達まで微妙な顔をしていた。


 相手は未知の種族。


 本来なら慎重に段階を踏むべき相手。


 それを。


 王妃が自然に踏み越えていそうなのだ。


「……何故三人だけで北へ行かせたんです」


 若い外交官が思わず漏らす。


 レオンは静かに空を見た。


「止めても行く」


 即答だった。


 側近が遠い目をする。


「しかも本人達は、完全に旅感覚ですからね……」


「否定出来ん」


 本当に否定出来なかった。


 シャーロット。


 ルナ。


 フレア。


 あの三人は、放っておくと普通に歩いて地方へ行く。


 しかも本人達に危機感が薄い。


 その結果。


 なぜか状況が好転する。


 それが余計に厄介だった。


「……殿下」


 年配外交官が静かに口を開く。


「もし既に接触していた場合、どうされますか」


 空気が少し張る。


 レオンは数秒考えた後、静かに答えた。


「状況次第だ」


「ですが」


「最悪なのは、こちらが慌てて敵意を見せる事だ」


 外交官達も頷く。


 森側が警戒しているなら尚更だ。


「王妃殿下が無事なら、まず静観する」


 レオンは冷静だった。


 焦って動けば、余計に悪化する可能性がある。


「……やはり慣れておられますね」


 側近が苦笑する。


「何にだ」


「王妃殿下関連の予想外にです」


 レオンは小さく息を吐いた。


「慣れたくて慣れた訳じゃない」


 本音だった。


 その時。


 朝の鐘が鳴る。


 使節団出発の時間だった。


「出発準備」


 レオンの声で空気が切り替わる。


「北部へ向かう」


「はっ!」


 一斉に返事が響いた。


 荷車が動き始める。


 馬の足音。


 軋む車輪。


 王都の門がゆっくり開いていく。


 その先にあるのは、北の森。


 閉ざされた場所。


 未知の民。


 そして――


 多分もう、勝手に近づいている王妃。


「……頼むから問題を起こすな」


 レオンが小さく呟く。


 だが。


 側近は心の中で思っていた。


 もう遅い気がすると。


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