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第5節「使節団準備 中」

「……内容は」


 レオンが静かに聞く。


 兵士は少し息を整えてから報告した。


「王妃殿下達ですが、北部街道を外れた可能性があります!」


「……は?」


 思わず、若い外交官が声を漏らした。


 周囲もざわつく。


「外れたとはどういう意味だ」


 側近が険しい顔で聞き返す。


「巡回報告地点から進路がずれており……」


 兵士が地図を広げる。


 示された位置。


 そこは。


「……森側だな」


 レオンが静かに言った。


 嫌な沈黙が落ちる。


「え、えぇと……」


「偶然では?」


「偶然で森側へ寄るか?」


「王妃殿下なら……」


「ありえるな……」


 誰も強く否定出来なかった。


 外交官達が微妙な顔をしている。


 先程まで“未知の森へ慎重に接触する方法”を真剣に議論していたのだ。


 その一方で。


 王妃が普通に近づいている可能性がある。


 頭が痛い。


「追加報告は」


「現在確認中です!」


 兵士が慌てて答える。


「護衛からの定時報告待ちとなります!」


「……そうか」


 レオンは小さく息を吐いた。


 側近が恐る恐る口を開く。


「殿下」


「何だ」


「流石に……森へ入ってはいませんよね」


 少し間が空く。


 レオンは静かに空を見上げた。


「……あの人は」


 ぽつりと呟く。


「本人に悪気なく壁を越える」


 外交官達が無言になる。


 否定出来ない。


 むしろ妙に説得力があった。


「ですが王妃殿下ですよ!?」


 若い外交官が焦った声を上げる。


「もし北側と接触でもしていたら――」


「その時は」


 レオンが静かに言葉を切る。


「……多分、もう遅い」


 完全に頭痛を堪える顔だった。


 側近が思わず額を押さえる。


「笑えませんね……」


「全くだ」


 その時。


 一人の年配外交官が、小さく苦笑した。


「ですが」


「何だ」


「王妃殿下なら、敵対はされない気もします」


 静かな言葉だった。


 レオンは少しだけ沈黙する。


 そして。


「……そこが一番否定出来ん」


 本当に困った顔で言った。

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