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第5節「使節団準備 上」

 翌朝。


 王城正門前には、使節団の荷車が整列していた。


 規模は大きくない。


 むしろ小さい。


 護衛も最低限。


 武装も抑えられている。


 それでも、周囲には独特の緊張感が漂っていた。


「積み込み最終確認!」


「保存薬草異常なし!」


「贈答品固定完了しました!」


 兵士達の声が飛び交う。


 外交官達も、最後の資料確認に追われていた。


「北部気候資料は持ったか?」


「はい!」


「接触時の礼節確認は?」


「再確認済みです!」


 まるで試験前みたいな空気だった。


 誰も余裕が無い。


 相手が未知すぎる。


 だからこそ、不安だけが増えていく。


「胃が痛い……」


 若い外交官が本音を漏らした。


「お前それ昨日からずっと言ってるな」


「実際痛いんですって!」


 隣の武官が苦笑する。


「まぁ気持ちは分かる」


 実際、全員似たような状態だった。


 その時。


 正門側から足音が響く。


「殿下」


 レオンだった。


 一瞬で空気が引き締まる。


 レオンは静かに荷車列を見渡した。


 護衛。


 物資。


 薬草。


 全て確認するように視線を動かす。


「問題は」


「現在無しです」


 側近が即答する。


「出発可能です」


 レオンは小さく頷いた。


「今回の目的を忘れるな」


 静かな声だった。


 だが、その場全員へしっかり届く。


「威圧ではない」


「征服でもない」


「まず必要なのは、対話だ」


 外交官達が真剣な顔で頷く。


 レオンは続けた。


「焦る必要は無い」


「無理に結果を求めるな」


「拒絶された場合は引く」


 その言葉に、何人かが少しだけ表情を緩めた。


 “絶対成功させろ”ではない。


 それだけで、少し呼吸が楽になる。


「誠意を尽くせ」


 それが今回、一番重要な事だった。


「はっ!」


 一斉に返事が響く。


 その空気を見ながら、レオンは小さく息を吐いた。


 本当に未知の相手だ。


 だが。


 未来のためには必要な一歩。


 それだけは、絶対に間違っていない。


 その時。


「殿下ー!」


 遠くから兵士が走ってくる。


「北部巡回の追加報告です!」


 嫌な予感しかしなかった。

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