第4節「未来の命 下」
夕方。
使節団の最終準備は、ほぼ完了していた。
荷車の確認。
護衛配置。
保存薬草の管理。
どれも慎重に進められている。
「こちら固定完了しました!」
「北部用防寒具も積み込み済みです!」
慌ただしく動く兵士達を見ながら、レオンは静かに地図を眺めていた。
王都。
北部街道。
そして、森側地域。
王国にとって、そこは未だ未知に近い場所だった。
「殿下」
側近が小さく声を掛ける。
「出発は予定通り明朝です」
「あぁ」
「……緊張しますね」
レオンは少しだけ空を見る。
夕焼けが赤く広がっていた。
「失敗する可能性の方が高い」
静かな言葉だった。
側近も否定しない。
交流記録は少ない。
人間不信も強い。
しかも相手は長命種。
短期間で結果が出るとは思えなかった。
「それでも行くんですね」
「必要だからな」
レオンは迷わない。
地方医療は、これからさらに広がっていく。
支部も増える。
救える命も増える。
だからこそ。
薬草不足も。
知識不足も。
放置は出来なかった。
「未来で救える命を増やす」
ぽつりと呟く。
それはもう、レオン自身の意思になっていた。
最初はシャーロットが始めた事だったかもしれない。
でも今は違う。
自分自身も、その必要性を理解している。
「……王妃殿下が聞いたら喜びそうですね」
側近が少し笑う。
レオンは小さく息を吐いた。
「どうだろうな」
「少なくとも怒りはしないかと」
「それはそうだ」
医療や地方支援の話になると、シャーロットは本当に嬉しそうにする。
思い出したように、レオンは少しだけ視線を北へ向けた。
「……今どこに居るんだ」
「王妃殿下ですか?」
「あぁ」
「北部方面です」
「それは知っている」
即答だった。
側近が思わず吹き出しそうになる。
「まぁ……流石に森へは入っていないでしょう」
「……」
レオンは返事をしなかった。
沈黙。
それが全てを物語っていた。
「否定してくださいよ」
「出来ると思うか?」
「出来ませんね……」
二人同時に小さく息を吐く。
本当に。
あの少女だけは、予測が出来なかった。
その頃。
当のシャーロットは。
北の森の近くで、焚火を囲みながら苦い薬草茶を飲んでいた。




