第4節「未来の命 上」
翌朝。
王城の中庭には、使節団用の荷車が並べられていた。
保存食。
薬草。
織物。
贈答品。
必要最低限に抑えられているが、それでも準備には相当な時間が掛かっている。
「積み込み確認終わりました!」
「護衛装備も調整済みです!」
慌ただしく動く人々を見ながら、レオンは静かに書類へ目を通していた。
「殿下」
薬師担当の男が近づいてくる。
「薬草類ですが、こちらを追加した方がよろしいかと」
「理由は」
「北部地域は冷えます。保存薬草だけでは対応しきれない可能性があります」
レオンは資料を見る。
必要性。
重量。
移動負荷。
少し考えた後、小さく頷いた。
「追加しろ」
「はっ」
薬師がすぐ動き出す。
その様子を見ながら、側近がぽつりと呟いた。
「本当に医療目的なんですね」
「他に何がある」
「いえ」
側近は苦笑する。
普通の外交なら、もっと利益や政治色が強い。
だが今回の使節団は違う。
薬草。
医療。
地方支援。
そういう話ばかりが並んでいる。
「……王妃殿下の影響ですか?」
その問いに、レオンは少しだけ沈黙した。
そして。
「元々、地方医療の拡充は必要だった」
静かな返答。
「だが」
視線を積み荷へ向ける。
「現実として見せられた」
地方の現状。
救えない命。
医者の不足。
薬草不足。
シャーロットは、そういう場所へ実際に手を伸ばした。
だから分かってしまった。
机上だけでは足りないと。
「未来で救える命を増やす」
レオンが静かに言う。
「それが今やるべき事だ」
その声には迷いが無かった。
側近は少しだけ目を細める。
「……殿下も変わりましたね」
「そうか?」
「以前なら、もっと国益を優先していました」
レオンは小さく息を吐く。
「国益だ」
「はい?」
「国が安定するには、人が必要だ」
淡々とした声だった。
「地方が崩れれば、いずれ国も崩れる」
医療も同じ。
王都だけ整っていても意味はない。
地方が維持されなければ、結局どこかで限界が来る。
「だから必要なんだ」
北の知識も。
薬草技術も。
未来へ繋ぐために。
その時だった。
「殿下ー!」
遠くから兵士が駆けてくる。
「北部巡回の追加報告です!」
レオンが視線を向ける。
「内容は」
「王妃殿下達、現在さらに北部方面へ移動中との事です!」
「……」
一瞬だけ。
レオンが無言になった。
側近も静かに目を逸らす。
嫌な予感しかしない空気だった。




