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第3節「慎重な外交官達 下」

 会議が終わる頃には、外はすっかり夜になっていた。


 王城の廊下には静かな灯りが並び、窓の外には王都の夜景が広がっている。


「はぁ……」


 若い文官が小さく息を吐いた。


「緊張するな……」


「今さらだ」


 隣の武官が苦笑する。


「だが気持ちは分かる」


 資料を抱えたまま歩きながら、皆どこか表情が硬い。


 相手は未知の種族。


 しかも、下手をすれば一言で終わる。


 だから誰も気を抜けなかった。


「贈答品、本当にあれで大丈夫でしょうか」


「豪華すぎても駄目、簡素すぎても駄目」


「正解が分からん……」


「胃が痛い」


 また同じ結論へ戻っていた。


 そんなやり取りを少し離れた場所で聞きながら、レオンは窓際へ立っていた。


 夜風が静かに入ってくる。


 遠くには王都の灯り。


 そのさらに向こうには、北の森がある。


「殿下」


 側近が後ろから声を掛ける。


「どうした」


「使節団名簿、最終版です」


 レオンは書類を受け取る。


 外交官。


 薬師。


 護衛。


 記録係。


 人数は最小限。


 慎重に選ばれている。


「……これで行く」


「はっ」


 側近が一礼する。


 その後、少しだけ迷うように口を開いた。


「本当に難しい相手ですね」


「あぁ」


 レオンは否定しない。


「過去の接触例も少なすぎる」


「人間側の問題も多かったからな」


 森の乱獲。


 無断侵入。


 伐採。


 積み重なった不信は簡単には消えない。


「だからこそ、今回は失敗出来ません」


「失敗はするかもしれん」


 側近が少し驚いた顔をする。


 レオンは静かに窓の外を見ていた。


「だが、やらなければ何も始まらない」


 その声は落ち着いていた。


 焦ってはいない。


 けれど、止まる気も無い。


「……王妃殿下なら、こういう時どう動かれるでしょうね」


 不意に側近が言った。


 レオンは少しだけ沈黙する。


 そして。


「……あの人なら、考える前に近づく」


「ありえますね……」


 側近が思わず苦笑した。


 レオンも小さく息を吐く。


 本当にそうなのだ。


 理屈で動いていない。


 でも、なぜか人の懐へ入っていく。


 それがシャーロットだった。


「……まぁ」


 レオンが静かに空を見る。


「流石に森へ入ってはいないだろう」


 その言葉。


 何故か側近は、否定出来なかった。

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