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第2節「北へ向かう者達 下」

 その日の夕方。


 三人は森沿いの開けた場所で野営準備をしていた。


 近くには小川。


 頭上には大きな木々。


 空はもう橙色へ染まり始めている。


「今日はここでいい?」


「……悪くない」


 ルナが周囲を確認しながら頷いた。


 フレアは既に焚火用の枝を集めている。


「なんか最近、森の気配近いよね」


「うん」


 シャーロットも小さく頷く。


 見られている感覚は、もうずっと続いていた。


 でも。


 不思議と怖くはない。


 むしろ。


 少しずつ距離を測られているような感じだった。


「はい火ー!」


 フレアが小さな炎を飛ばす。


 ぱちっ。


 焚火へ火が移った。


 やがて温かな灯りが三人を照らし始める。


「落ち着くねぇ」


 シャーロットが火を見つめながら笑う。


 ぱちぱちと木が鳴る音。


 夜風。


 森の匂い。


 王都では味わえない静けさだった。


「……それ飲むの?」


 ルナが薬草袋を見る。


 泉で見つけたものだ。


「ちょっとだけ試してみる」


「勇気ある」


「えへへ……」


 シャーロットは小鍋へ水を入れ、乾燥薬草を少しだけ落とした。


 すると、すぐに独特の香りが広がる。


 森みたいな匂い。


 雨上がりの草みたいな香り。


「うわ、なんかすごい」


 フレアが顔を近づける。


「絶対苦いやつ」


「先入観すごいね」


 しばらく煮ると、淡い緑色のお茶になった。


 シャーロットはそっと一口飲む。


「……あっ」


「どう?」


「苦い」


「やっぱり!」


 フレアが嬉しそうに言う。


「でも」


 シャーロットがもう一口飲む。


「なんか落ち着く」


「えぇー……」


 フレアは露骨に嫌そうな顔をした。


 ルナは静かに湯呑みを受け取る。


 一口。


「……悪くない」


「また裏切った!」


「最初から仲間じゃない」


 いつもの流れだった。


 三人で小さく笑う。


 その時。


 ざわり。


 森の奥で葉が揺れた。


 同時に。


 ふわりと風が流れる。


「……」


 ルナが静かに顔を上げる。


 シャーロットも森を見る。


 暗い木々の向こう。


 そこに。


 今度は、はっきり見えた。


 人影。


 長い耳。


 淡い銀色の髪。


 細い身体。


 こちらを静かに見ている。


「……あ」


 シャーロットが小さく息を呑む。


 逃げない。


 隠れない。


 ただ、じっとこちらを見ていた。


 焚火の灯りが揺れる。


 静かな夜。


 森の空気。


 その中で。


 初めて、“森の民”と目が合った。

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