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第2節「北へ向かう者達 中」

「食べる?」


 フレアが籠を覗き込みながら聞く。


「まだやめとく」


 シャーロットは苦笑した。


 流石にいきなり口へ入れる勇気はない。


 でも、不思議と嫌な感じはしなかった。


「……甘い匂いする」


 ルナが小さく呟く。


 確かに果実からは、ほんのり甘い香りが漂っていた。


「森のおやつ?」


 フレアが適当な事を言う。


「違うと思う」


 シャーロットが笑う。


 三人は再び歩き始めた。


 籠はシャーロットが大事そうに持っている。


 風が吹く。


 木々が揺れる。


 その度に、また小さく気配を感じた。


「……まだ見てる」


 ルナがぽつりと言う。


「うん」


 でも今は、少しだけ空気が違った。


 最初より、警戒が薄い。


 そんな気がする。


「なんか森の動物に観察されてる気分」


 フレアが笑う。


「ちょっと分かるかも」


 シャーロットも苦笑した。


 しばらく進むと、街道脇に小さな泉が見えてくる。


 透き通った水。


 周囲には白い花が咲いていた。


「わぁ……」


 シャーロットが思わず足を止める。


「きれい」


 泉の水面には木漏れ日が揺れていた。


 静かで。


 澄んでいて。


 まるで森の一部そのものみたいだった。


「……ん?」


 その時。


 シャーロットが泉の端へ視線を向ける。


 小さな布袋が置かれていた。


「また?」


 フレアが目を丸くする。


 近づいてみると、中には乾燥薬草が入っていた。


 市場で見た薬草茶と似た香り。


「これ絶対わざとだよね」


「……うん」


 ルナも否定しない。


 偶然じゃない。


 見える場所へ。


 分かるように置かれている。


「なんだろ」


 シャーロットが薬草袋をそっと持ち上げる。


 すると。


 ふわり。


 また風が吹いた。


 白い花が揺れる。


 葉が鳴る。


 そして、一瞬だけ。


 木々の奥に人影が見えた。


 長い耳。


 淡い髪。


 細い身体。


 でも次の瞬間には、もう居ない。


「……あっ」


 シャーロットが小さく声を漏らす。


「居た?」


 フレアが振り返る。


「今……」


 言いかけた時には、もう森は静かだった。


 ただ風だけが流れていく。


「……近い」


 ルナが静かに呟く。


 その声には、少しだけ確信が混ざっていた。


 シャーロットは薬草袋を胸元で抱える。


 怖くはない。


 でも。


 少しだけ胸が高鳴っていた。


 知らない世界が、すぐ近くまで来ている気がした。

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