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第1節「レオンの計画 下」

 側近が部屋を出た後、執務室には静けさが戻っていた。


 窓の外では、夕陽が王都を赤く染め始めている。


 レオンは椅子へ深く座り直し、小さく息を吐いた。


 机の上には、北側地域の資料。


 そして、使節団編成案。


「……難しいな」


 ぽつりと零れる。


 相手は人間ではない。


 いや、正確には違う文化圏の存在だ。


 寿命。


 価値観。


 時間感覚。


 全てが違う。


 王国側の都合で押せば、確実に失敗する。


「慎重に進めるしかないか」


 レオンは静かに資料を閉じた。


 その時だった。


 こんこん。


 軽いノック音が響く。


「失礼します」


 入ってきたのはエリシアだった。


「まだ仕事してたんですか」


「お前こそ」


「人の事言えませんね」


 淡々とした会話。


 だが、もう互いに慣れている。


 エリシアは机へ新しい書類を置いた。


「地方支部の追加報告です」


「ご苦労」


 レオンが受け取る。


 少し目を通した後、小さく頷いた。


「順調そうだな」


「現場が安定してきましたから」


 以前とは違う。


 今は各地方支部にも人が育ち始めている。


 全部をシャーロット一人へ頼る必要はなくなってきた。


「……本当に変わりました」


 エリシアが静かに呟く。


「最初はあんなに余裕が無かったのに」


「そうだな」


 レオンも否定しない。


 走り続けるしかなかった。


 止まれば誰かが苦しむ。


 そんな状態だった。


 だからこそ、今こうして“任せられる場所”が出来たのは大きい。


「その本人は今頃旅を満喫してるんでしょうけど」


 エリシアが少しだけ疲れた顔をする。


「報告では北方面だな」


「えぇ」


 そこでレオンは小さく視線を上げた。


「……北方面?」


「はい?」


「どこまで行ってる」


「まだ詳細は」


 そこまで言って、エリシアも少しだけ止まる。


 北。


 森。


 閉鎖的地域。


 今まさにレオンが調べていた場所。


「……まさか」


「いや」


 レオンが即座に否定する。


「流石にそんな偶然は――」


 言いかけて止まった。


 エリシアも無言になる。


 二人とも思い出していた。


 あの少女は。


 妙な方向へ自然に進む。


 しかも本人に自覚が無い。


「……」


「……」


 沈黙。


 先に口を開いたのはエリシアだった。


「ありえますね」


「否定しきれん」


 本気で頭を抱えたくなる。


 レオンは額へ手を当て、小さく息を吐いた。


「……護衛を増やすべきだったか」


「増やしても止まらないと思います」


「それもそうだな」


 否定出来ない。


 エリシアが少しだけ苦笑する。


「まぁでも」


「何だ」


「不思議と、大事にはならない気がするんですよね」


 レオンは少しだけ窓の外を見る。


 夕焼けの空。


 遠い北の森。


 そして、たぶん今もどこかを歩いている少女。


「……それが一番読めない」


 本当にそう思っている声だった。

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