第1節「レオンの計画 上」
その頃。
王都では、別の準備が静かに進められていた。
「北部街道の報告書です」
「こちらへ」
王城の執務室。
机の上には、大量の書類が積まれていた。
地方支部の運営報告。
薬草流通。
巡回制度。
そして――
北側地域に関する資料。
レオンは静かに紙をめくる。
黒髪を揺らしながら、淡々と内容を確認していく。
「北部交易路、現状維持です」
「森側との接触報告は?」
「ほぼ無しです」
側近の男が答える。
「薬草商が時折接触する程度かと」
「……そうか」
短く返しながら、レオンは窓の外を見る。
王都の空。
整備された街並み。
活気ある人の流れ。
この国は、以前より確実に変わり始めていた。
聖療院。
地方支部。
巡回制度。
それらが少しずつ、地方の命を支え始めている。
だが。
「まだ足りない」
レオンが静かに呟く。
「はい?」
「薬草だ」
王都の医療は拡大している。
地方支部も増えている。
当然、必要になる薬草量も増えていた。
「今後さらに需要は増える」
レオンは机上の資料を指先で軽く叩く。
「栽培技術も不足している。保存法も未熟だ」
「確かに……」
側近も表情を引き締める。
今はまだ回っている。
だが、このまま規模が拡大すれば限界が来る。
「北側の森には、高度な薬草知識を持つ者達が居る」
静かな声だった。
「……エルフですか」
「そうだ」
側近の声も少し低くなる。
王国において、エルフは半ば伝承に近い存在だった。
存在は知られている。
だが、接触は少ない。
閉鎖的。
森に籠る民。
そんな認識が強い。
「交流記録も極端に少ないです」
「だからこそ価値がある」
レオンは即座に返した。
感情ではなく、必要性で動いている。
それがレオンだった。
「薬草技術。自然療法。栽培法」
どれも、今後の王国に必要になる。
「将来的には、地方医療の安定化へ繋がる」
視線を資料へ戻す。
静かな決意が、その目にはあった。
「……難航は避けられませんが」
「分かっている」
エルフは人間を警戒している。
それくらいは資料でも分かる。
過去の接触記録も少ない。
交流成功例もほぼ無い。
だが。
「やる価値はある」
レオンはそう言い切った。
その声には迷いが無かった。
救える命を増やす。
そのためなら、必要な手は打つ。
それが今のレオンだった。




