第8節「興味 下」
夕方が近づく頃には、森の空気はさらに深くなっていた。
街道はまだ続いている。
けれど、人の手が入っている感じは少しずつ薄れていた。
道端の草も自然のまま。
木々も高く、空が遠い。
「ほんと静かだねぇ」
シャーロットが周囲を見回す。
風の音。
葉の擦れる音。
小川の流れる音。
それ以外は、ほとんど聞こえない。
「王都だと静かすぎて落ち着かなそう」
フレアがぼそりと言う。
「ここは逆に落ち着く」
ルナが静かに返した。
シャーロットは少しだけ笑う。
ルナはやっぱり、こういう場所の方が自然に見える。
「今日はこの辺で休む?」
シャーロットが辺りを見回す。
少し開けた場所があり、野営するには悪くなさそうだった。
「賛成ー」
フレアが荷物を下ろす。
ルナは周囲を確認しながら、小さく頷いた。
「……大丈夫そう」
三人で簡単な野営準備を始める。
焚火用の枝。
水。
簡易寝具。
旅に出てから、こういう作業にも少し慣れてきていた。
「火つけるね!」
フレアが指先へ小さな炎を灯す。
ぱちっ。
乾いた枝へ火が移る。
やがて小さな焚火が揺れ始めた。
「なんかキャンプっぽい!」
「野営だから」
ルナが静かに返す。
焚火の火は小さい。
森の中だから、必要以上に大きくはしない。
ぱちぱちと木が鳴る音を聞きながら、シャーロットは火を見つめた。
「落ち着くねぇ」
「分かる」
フレアも焚火を見つめながら頷く。
その時だった。
ふわり。
風が吹く。
焚火が少し揺れる。
同時に。
ざわり。
森の奥で葉が揺れた。
三人が同時に顔を上げる。
「……また?」
フレアが小声で呟く。
気配。
視線。
確かに感じる。
でも、敵意は無い。
むしろ。
様子を見られているだけ。
そんな感覚だった。
「……出てこないね」
シャーロットがぽつりと言う。
「警戒されてる」
ルナが静かに答える。
「そりゃそうかぁ」
もし逆なら、自分達だって警戒する。
知らない旅人が森の近くまで来ているのだから。
「でも」
シャーロットが小さく焚火を見る。
「追い返されないんだね」
その言葉に、ルナが少しだけ目を細めた。
「……そうだね」
もし本当に拒絶されているなら。
もっと前に近づけなくなっていたかもしれない。
静かに見られている。
それはつまり、まだ“観察”の段階なのだ。
「なんか試されてるみたい」
フレアが小さく笑う。
「騒いだら怒られそう」
「多分怒られる」
ルナが真顔で返した。
少しだけ笑いが漏れる。
焚火の火が揺れる。
夜の森は静かだった。
でも、その静けさは嫌なものじゃない。
ただ。
何かがこちらを見ている。
それだけは、もう確かだった。
シャーロットは焚火の向こう、暗い森を見つめる。
知らない場所。
知らない人達。
でも。
少しずつ、その世界へ近づいている気がした。




