第8節「興味 上」
川辺を離れた後も、三人はゆっくり北へ向かって歩き続けていた。
森はさらに深くなっていく。
街道沿いにも大木が増え、木漏れ日が地面へまだらに落ちていた。
「……静か」
シャーロットがぽつりと呟く。
ここまで来ると、人の気配はほとんど無い。
旅人ともすれ違わなくなっていた。
「なんかほんと別世界みたい」
フレアが周囲を見回す。
「王都と全然違う」
「空気濃い」
ルナが短く言った。
湿った土。
草木。
水。
自然の匂いが濃い。
歩いているだけで、身体の感覚が少し変わるようだった。
「ねぇ」
フレアがシャーロットを見る。
「結局さ」
「ん?」
「気になってるんでしょ?」
「えっ」
「森の人達」
シャーロットは少しだけ視線を逸らした。
「……うぅ」
「図星」
ルナが静かに言う。
「だって気になるよぉ」
少し照れたように笑う。
市場。
宿。
休憩所。
どこでも少しずつ話を聞いた。
静かな人達。
薬草。
森。
閉ざされた場所。
気にならない方が難しい。
「会ってみたい?」
フレアが聞く。
シャーロットは少し考える。
怖い訳じゃない。
でも、軽い気持ちで踏み込んでいい場所じゃない気もしていた。
「……分かんない」
正直な答えだった。
「でも」
小さく空を見上げる。
木々の隙間から青空が見えていた。
「どんな場所なのかなって、ちょっと思う」
その言葉を聞いて、フレアがにやっと笑う。
「じゃあ行こ!」
「軽い!」
「気になるなら見る!」
実にフレアらしい答えだった。
ルナは小さくため息を吐く。
「簡単に入れる場所じゃないと思う」
「だよねぇ……」
シャーロットもそれは分かっている。
むしろ、だからこそ気になる。
簡単に人を入れない。
外と距離を取っている。
それなのに、完全に拒絶している訳でもない。
不思議な場所だった。
その時。
風が吹いた。
木々がざわりと揺れる。
そしてまた、あの感覚。
誰かに見られている。
「……」
シャーロットがそっと森を見る。
でも姿は見えない。
ただ静かな森が広がっているだけ。
「シャーロット」
ルナが小さく呼ぶ。
「ん?」
「怖いなら戻る?」
その言葉に、シャーロットは少し驚いた。
でもすぐに首を横へ振る。
「怖くはないよ」
本当に。
不思議なくらい、怖くはなかった。
緊張はする。
でも、それ以上に。
「……知りたいかも」
小さな声だった。
けれど、今までで一番はっきりした言葉だった。




