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第7節「森の噂 下」

 それからしばらく歩いても、森は静かなままだった。


 鳥の声も少ない。


 風が葉を揺らす音だけが、時々聞こえる。


「……ほんとに見られてる?」


 フレアが小声で聞く。


「多分」


 ルナが短く答える。


「でも敵意はない」


「分かるの?」


「なんとなく」


 竜の感覚なのか、それともルナ自身の勘なのか。


 シャーロットには分からない。


 でも、ルナが落ち着いているなら大丈夫な気がした。


「んー……」


 フレアは辺りをきょろきょろ見回す。


「出てこないかな」


「やめて」


 ルナが即座に止めた。


「刺激しない方がいい」


「はーい」


 一応返事はする。


 でもフレアは少し楽しそうだった。


 しばらく進むと、木々の間から小さな川が見えてきた。


 透き通った綺麗な水。


 浅瀬には小魚が泳いでいる。


「わぁ……」


 シャーロットが思わず足を止める。


「きれい」


「飲めそう」


 ルナがしゃがみ込み、水を軽く触った。


 冷たい。


 でも嫌な感じはしない。


「少し休憩する?」


「さんせーい!」


 フレアが即座に靴を脱ごうとする。


「落ちるよ」


「落ちないもん!」


 その直後。


「わっ!?」


 足を滑らせかけた。


「ほら」


「うぅ……」


 結局シャーロットに支えられている。


 三人で川辺へ腰を下ろす。


 流れる水の音が心地良かった。


 森の静けさとはまた違う、優しい音だった。


「なんかさ」


 フレアが川を眺めながら呟く。


「今までの旅と空気違うよね」


「うん」


 シャーロットも頷く。


 地方の村や町は、人の空気があった。


 でもここは違う。


 自然の中へ入っている感じが強い。


「……静かな場所」


 ルナがぽつりと言った。


 その横顔はどこか落ち着いて見える。


「ルナこういう場所好きそう」


「嫌いじゃない」


 またその言い方だった。


 シャーロットはくすっと笑う。


 その時。


 ふわり。


 風が吹いた。


 葉が揺れる。


 草が揺れる。


 そして。


「……あれ?」


 シャーロットが小さく目を瞬かせた。


 川向こう。


 木々の奥。


 一瞬だけ。


 誰かが立っていた気がした。


 長い耳。


 淡い金色の髪。


 でも次の瞬間には、もう姿は見えない。


「どうした?」


 ルナが静かに聞く。


「今、誰か……」


 言いながら視線を向ける。


 けれど。


 そこにはもう木々しかなかった。


「居た?」


 フレアも立ち上がって見る。


「分かんない」


 見間違いかもしれない。


 でも。


 胸の奥に、小さな感覚だけが残っていた。


 見られている。


 観察されている。


 それなのに。


 不思議と嫌ではない。


「……そろそろ本当に近いかも」


 ルナが静かに呟く。


 シャーロットはもう一度だけ、森の奥を見つめた。


 風が吹く。


 木々が揺れる。


 その向こうには、まだ知らない世界が広がっている気がした。

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