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第7節「森の噂 上」

 温泉宿を出てから二日後。


 三人はさらに北へ進んでいた。


 街道は少しずつ細くなり、人通りも減っている。


 代わりに増えたのは森だった。


 道の左右を囲む木々。


 湿った土の匂い。


 風の音。


 王都近辺とは、もう空気そのものが違う。


「静かだねぇ」


 シャーロットが周囲を見回す。


 鳥の声は聞こえる。


 葉の擦れる音もある。


 でも、人の気配は少なかった。


「北側だから」


 ルナが短く答える。


「なんか森増えてきた!」


 フレアは相変わらず元気だ。


 時々道端へ寄っては、珍しい草や木の実を見つけている。


「それ食べないでね?」


「まだ食べてない!」


「“まだ”って言った」


 ルナが呆れたように呟いた。


 昼頃になると、街道沿いに小さな休憩所が見えてくる。


 木造の簡素な建物だった。


 旅人用らしく、外には水場もある。


「少し休憩しよっか」


「さんせーい!」


 フレアが真っ先に木椅子へ座り込む。


 シャーロットも荷物を下ろして、小さく息を吐いた。


 風が気持ち良い。


 森が近いからか、空気が少し冷たい。


「おや、旅の方ですか」


 休憩所の管理人らしい老人が、奥から顔を出した。


「はい!」


「珍しいですねぇ。この辺まで来る人は最近少ない」


「そうなんですか?」


 老人は頷く。


「北側は森ばかりですからなぁ」


 そう言いながら、お茶を持ってきてくれた。


 湯気の立つ薬草茶。


 少し草っぽい匂い。


「あっ」


 シャーロットが小さく目を丸くする。


「これ……」


「ん?」


「市場で買ったお茶と匂い似てる」


 老人が少し驚いたように見る。


「ほぉ、知ってましたか」


「森側の薬草茶ですよね?」


「えぇ」


 老人はゆっくり頷いた。


「昔はもっとよく流れてきたんですがなぁ」


「森側って、どんな人達なんですか?」


 シャーロットが素直に聞く。


 すると老人は少し考えるように空を見上げた。


「静かな人達ですよ」


 市場の店主と似た答えだった。


「必要以上に喋らんし、近づきもしない」


「怖い人?」


「いやぁ」


 老人は小さく笑う。


「むしろ逆ですな」


「逆?」


「争いを嫌う人達です」


 シャーロットが静かに耳を傾ける。


「ただ……」


 老人の表情が少しだけ変わった。


「森を荒らす者には厳しい」


 風が吹く。


 木々がざわりと揺れた。


「昔、森へ勝手に入って薬草を乱獲した連中がいてなぁ」


「どうなったんですか?」


「二度と近づけなくなりました」


 静かな言い方だった。


 でも不思議と冗談には聞こえない。


 フレアが少しだけ眉を上げる。


「へぇー」


「まぁ普通にしてれば害はありませんよ」


 老人は穏やかに笑った。


「むしろ、良い薬草を分けてくれる事もある」


 シャーロットは湯呑みを見つめる。


 森側。


 静かな人達。


 薬草。


 少しずつ、その輪郭が見え始めていた。


「……気になる?」


 ルナがぽつりと聞く。


 シャーロットは少し考えてから、小さく頷く。


「うん」


 今度は、はっきりと。

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