第6節「温泉宿 下」
温泉から上がると、夜風がひんやり気持ち良かった。
「生き返った……」
フレアが廊下をふらふら歩きながら呟く。
「さっき死にかけてた」
ルナが静かに返した。
「温泉強い……」
「自分で長く入り過ぎたんだよ?」
シャーロットが苦笑する。
宿の廊下には柔らかな灯りが並び、木の床が静かに軋んでいた。
地方の宿らしい落ち着いた空気。
どこか安心する匂い。
「お風呂上がりのお茶です」
部屋へ戻ると、女将が冷たい薬草茶を置いていってくれた。
「わぁ、ありがとう!」
シャーロットが嬉しそうに湯呑みを持つ。
一口飲むと、少しすっきりした香りが広がった。
「おいしい」
「ほんと?」
フレアも飲む。
そして。
「……これなら飲める!」
「上から目線」
ルナがぼそりと呟いた。
温泉後だからか、身体がぽかぽかしている。
疲れも少し軽くなっていた。
「ねぇねぇ」
フレアが寝台へ転がりながら聞いてくる。
「次どこ行くの?」
「んー……」
シャーロットは窓の外を見た。
山の向こう。
さらに北。
市場や宿で聞いた“森側”という言葉が、まだ少し頭に残っている。
「もうちょっと北かな?」
「森の方?」
「たぶん」
「面白そう!」
フレアは完全に乗り気だった。
ルナは少しだけ静かに窓の外を見る。
「……空気変わってきてる」
「えっ?」
「少しずつ」
そう言われてみれば、確かにそうかもしれない。
王都近辺より空気が澄んでいる。
自然も増えている。
夜の静けさも深い。
旅を続けるほど、世界が変わっていく感じがした。
「えへへ」
シャーロットが小さく笑う。
「なんか楽しみかも」
「珍しいね」
フレアが少し目を丸くした。
「シャーロット、自分から“行きたい”ってあんまり言わないのに」
「あっ……」
言われて気づく。
確かにそうだった。
今までは誰かを助けるために動く事が多かった。
でも今回は少し違う。
知らない場所を見てみたい。
知らない人達を知ってみたい。
そんな気持ちで進んでいる。
「……いい事」
ルナが静かに言った。
シャーロットは少し照れくさそうに笑う。
窓の外では、山の夜風が木々を揺らしていた。
まだ見ぬ北の森。
静かな人達。
不思議な薬草茶。
少しずつ。
本当に少しずつ。
旅は、知らない世界へ近づき始めていた。




