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第6節「温泉宿 中」

「ふぁぁぁ……」


 フレアが完全に溶けた声を出していた。


 岩風呂の縁へだらりともたれ、半分眠そうになっている。


「……おじいちゃんみたい」


 ルナが静かに呟く。


「温泉は人を駄目にするんだよ……」


「駄目になってる」


 シャーロットは思わず吹き出した。


「えへへ」


 湯気がゆっくり漂う。


 露天風呂の外では、夜風が木々を揺らしていた。


 山間の宿だからか、空気も少し澄んでいる。


「夜の温泉っていいねぇ」


「静か」


 ルナもどこか落ち着いていた。


 王都に居る時より、表情も少し柔らかい。


「ルナって温泉好き?」


「……嫌いじゃない」


 その返答に、フレアがにやっと笑う。


「また好きって言わない!」


「別に」


「絶対好きじゃん!」


 騒がしい。


 近くで浸かっていた年配の女性達が、くすくす笑っている。


「仲良いお嬢さん達だねぇ」


「えへへ」


 シャーロットが少し照れたように笑う。


「旅の途中なんです」


「あら、どこから?」


「王都からです!」


「まぁ遠い」


 女性達が驚いたように目を丸くする。


「若いのに大したもんだねぇ」


「歩きなの?」


「うん!」


「元気だねぇ」


 地方の人達は距離感が近い。


 でも嫌な感じはしなかった。


 むしろ、どこか温かい。


「最近は旅人も減ったからねぇ」


 年配の女性の一人がぽつりと言う。


「北側は静かすぎるし」


「北側?」


 シャーロットが小さく聞き返す。


「森の方さ」


 また、その言葉だった。


「昔はたまーに森側の人も来てたんだけどねぇ」


「最近は全然見ないねぇ」


 別の女性も頷く。


「静かな人達だったよ」


「綺麗な人多かったねぇ」


 シャーロットが少しだけ目を瞬かせる。


 市場でも。


 宿でも。


 少しずつ同じ話が出てくる。


 北の森。


 静かな人達。


 薬草。


 なんとなく、点が繋がり始めていた。


「気になる?」


 ルナが静かに聞く。


「んー……」


 シャーロットは少し考える。


「まだ分かんない」


 本当にそうだった。


 興味はある。


 でも、それ以上でも以下でもない。


 ただ。


 知らない場所を知りたい。


 そんな気持ちは少しずつ大きくなっていた。


「私は温泉の方が気になる!」


 フレアが突然ざばっと立ち上がる。


「のぼせる」


 ルナが即座に言った。


「大丈夫!」


 その直後。


「ふらっ」


「あっ」


 案の定だった。


 シャーロットが慌てて支える。


「だから言った」


「うぅー……」


 完全にのぼせていた。


 周囲から小さな笑いが漏れる。


 シャーロットも苦笑しながら、フレアを岩場へ座らせた。


「お水飲もっか」


「温泉怖い……」


「自業自得」


 ルナが容赦ない。


 でもその声は、少しだけ楽しそうだった。


 湯気の向こうでは、夜空が静かに広がっている。


 遠くで虫が鳴いていた。


 こういう時間も、悪くない。


 シャーロットは湯へ浸かりながら、ぼんやりそんな事を思っていた。

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