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第5節「普通の女の子 中」

 朝食を終えた後、三人は町の通りをゆっくり歩いていた。


 朝の市場は昨日より静かだ。


 店を開く準備をする人。


 荷物を運ぶ商人。


 眠そうに掃除をしている店員。


 そんな穏やかな朝の空気が流れている。


「んー……」


 フレアが大きく伸びをする。


「今日もいい天気!」


「歩きやすそう」


 ルナが空を見上げながら呟く。


 雲は少ない。


 旅日和だった。


「急がなくていいって、なんか不思議だねぇ」


 シャーロットがぽつりと言う。


「いつも忙しかったから?」


「うん」


 王都では、次から次へやる事があった。


 診察。


 巡回。


 相談。


 書類。


 気づけば一日が終わっている。


 でも今は違う。


 歩く速度も。


 休憩の時間も。


 全部、自分達で決められる。


「なんか……普通の旅人みたい」


 シャーロットが少し照れたように笑う。


「旅人じゃん」


 フレアが即答した。


「まぁそうなんだけど」


「シャーロット、たまに変なとこで真面目」


「うぅ……」


 否定出来なかった。


 その時。


「お姉ちゃーん!」


 後ろから元気な声が飛んでくる。


 振り返ると、昨日食堂で話しかけてきた男の子が走ってきていた。


「あっ」


「もう出発するの?」


「うん、そろそろね」


 男の子は少しだけ残念そうな顔をした。


「もっとお話したかった」


「えへへ、ごめんね?」


 シャーロットが目線を合わせるようにしゃがむ。


「でもまた来るかも!」


「ほんと!?」


「うん!」


 その笑顔を見て、男の子もぱっと顔を明るくした。


「約束だよ!」


「約束!」


 小さな指が差し出される。


 シャーロットはくすっと笑って、指を絡めた。


「はい、約束」


 その様子を見ながら、フレアが小声で呟く。


「ほんとどこでも子供に懐かれるね」


「……優しいから」


 ルナが静かに返した。


 シャーロット本人は気づいていない。


 でも。


 目線を合わせる。


 ちゃんと話を聞く。


 怖がらせない。


 そういう小さい事が自然に出来るから、子供達も安心するのだ。


「お姉ちゃん達、気をつけてね!」


「うん、ありがとう!」


 男の子が大きく手を振る。


 三人も手を振り返しながら町を後にした。


 少し歩くと、再び街道へ出る。


 朝の風が気持ち良い。


「ねぇ」


 フレアが歩きながら聞いてくる。


「シャーロット、楽しい?」


「ん?」


「旅」


 シャーロットは少しだけ考える。


 知らない景色。


 知らない人。


 知らない味。


 全部が新しい。


 でも、それだけじゃない。


「……うん」


 自然と笑みが零れた。


「なんかね」


「うん?」


「今まで見えてなかったもの、いっぱいあるんだなぁって思う」


 地方の暮らし。


 薬草文化。


 人の空気。


 王都だけでは見えない世界。


 それを知れるのが、少し嬉しかった。


「えへへ」


 シャーロットが空を見上げる。


 青空はどこまでも広がっていた。


 まだ旅は始まったばかり。


 でも。


 少しずつ、世界が広がっている気がした。

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