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第4節「夜飛行 下」

 夜空を滑るように、ルナは静かに飛び続ける。


 羽ばたきは大きいのに、不思議と揺れは少ない。


 風だけが、頬を撫でていく。


「……きれい」


 シャーロットがぽつりと呟く。


 下には、小さな灯りが点々と見えていた。


 村。


 街道。


 旅人の焚火。


 昼間歩いていた道が、まるで別の世界みたいに見える。


「人、小さいねぇ」


「高いから」


 ルナの低い声が返ってくる。


 空の上は静かだった。


 地上の喧騒も届かない。


 ただ風の音だけが耳に残る。


「ルナは、こうやって飛ぶの好き?」


 少し間を置いてから、ルナが答える。


「……嫌いじゃない」


「えへへ」


 それはたぶん、かなり好きな方の返事だった。


 シャーロットは小さく笑いながら、もう一度空を見上げる。


 星が近い。


 手を伸ばしたら届きそうなくらい。


「王都に居ると、空ゆっくり見る事少ないかも」


「忙しいから」


「うん」


 返事をしながら、シャーロットは少しだけ視線を落とした。


 王都では毎日慌ただしかった。


 患者。


 地方支部。


 巡回。


 考える事は尽きない。


 でも今は違う。


 空の上には、自分達しか居ない。


 急かす声も。


 呼ぶ声もない。


 それが少し、不思議だった。


「……静かだね」


「静かな方が好き?」


「んー……」


 少し考える。


「嫌いじゃないかな」


 王都の賑やかさも好きだ。


 でも。


 こういう静かな時間も、悪くないと思った。


「フレア寝てるかなぁ」


「多分」


「起きたら怒るかな」


「怒る」


 二人で少しだけ笑う。


 その時だった。


 遠くの森の方から、ふわりと風が流れてきた。


 少し湿った空気。


 草木の匂い。


「……ん?」


 シャーロットが小さく顔を上げる。


 夜の中。


 遠くに黒い森が見えた。


 昼間よりもずっと深く、静かに見える。


「森?」


「北側」


 ルナが短く答える。


「……静か」


 その声は、どこか少しだけ真剣だった。


 シャーロットは森を見つめる。


 風が揺れる。


 木々がざわめく。


 それだけなのに。


 なぜか少しだけ、不思議な感覚がした。


「……呼ばれてるみたい」


 思わずそんな言葉が零れる。


 ルナは少しだけ沈黙した。


「……行きたい?」


「えっ」


 聞かれて、シャーロットは困ったように笑う。


「まだ分かんない」


 本当にそうだった。


 怖い訳じゃない。


 でも、何かがある。


 そんな気配だけがした。


 ルナはそれ以上聞かなかった。


 ただ静かに、高度を少し下げる。


 遠くに町の灯りが見えてくる。


「戻る?」


「うん」


 宿の方へ向かいながら、シャーロットはもう一度だけ森を振り返った。


 夜の森は静かだった。


 でも。


 なぜか少しだけ、気になった。

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