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第4節「夜飛行 上」

 深夜。


 宿の中が静まり返った頃。


 シャーロットはふと目を覚ました。


「……ん」


 薄暗い部屋。


 隣ではフレアが完全に寝崩れている。


 布団を半分蹴飛ばしながら、すぅすぅ寝息を立てていた。


「風邪引くよぉ……」


 苦笑しながら布団を掛け直す。


 その時。


「起きた?」


 窓際から静かな声がした。


 ルナだった。


 椅子へ腰掛けたまま、外を眺めている。


「ルナまだ起きてたの?」


「……なんとなく」


 窓の外には星空が広がっていた。


 地方の夜は静かだ。


 灯りが少ない分、空がよく見える。


「少し外出る?」


 ルナがぽつりと聞く。


「えっ」


「空、綺麗」


 シャーロットは少し迷ってから、小さく笑った。


「うん!」


 宿を出ると、夜風がひんやり頬を撫でた。


 昼間とは違う静けさが辺りを包んでいる。


 遠くで虫の鳴き声。


 草が揺れる音。


 人の気配は少ない。


「わぁ……」


 シャーロットが空を見上げる。


 満天の星だった。


 王都では見えない数の星が、夜空いっぱいに広がっている。


「すごい……」


「静か」


 ルナも空を見上げていた。


 黒髪が夜風に揺れる。


 こういう時のルナは、本当に静かだった。


 まるで夜そのものみたいに。


「飛ぶ?」


 不意にルナが言う。


「えっ」


「せっかくだし」


 シャーロットの目が少し輝く。


「いいの?」


「誰も見てない」


 宿の裏手。


 人目の少ない場所へ移動する。


 月明かりの中、ルナが静かに目を閉じた。


 次の瞬間。


 黒い光が夜へ溶けるように広がった。


 風が揺れる。


 空気が震える。


 そして現れる。


 巨大な黒竜。


 夜へ溶け込むような漆黒の鱗。


 星明かりを反射する金色の瞳。


 圧倒的な存在感。


 それなのに、不思議と怖くはなかった。


「……乗る?」


 低く静かな声。


「うん!」


 シャーロットは慣れた様子で背へ乗る。


 最初は怖かった。


 でも今では、この背中の安心感を知っている。


「行く」


 次の瞬間。


 ルナが夜空へ飛び上がった。


「わぁっ!?」


 風が一気に流れる。


 宿。


 町。


 街道。


 全部が少しずつ遠ざかっていく。


 夜の空気は冷たい。


 でも、不思議と嫌じゃなかった。


「すごい……!」


 下には小さな灯りが見える。


 町の明かり。


 旅人達の焚火。


 静かな夜の景色。


「王都と全然違うね」


「……うん」


 ルナの声もどこか穏やかだった。


 空の上には、何もない。


 だからこそ落ち着く。


 そんな空気があった。


 シャーロットはルナの背へそっと身体を預ける。


 冷たい鱗。


 でも、その奥にはちゃんと温もりがあった。


「えへへ」


「……楽しそう」


「うん」


 本当に。


 少しだけ。


 旅へ出て良かったと思った。

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