第3節「旅の夜 中」
夕食は一階の食堂で取る事になった。
木造の広間には旅人達が何組か集まっていて、穏やかな話し声が響いている。
王都の店ほど賑やかではない。
でも、その分だけ落ち着いていた。
「わぁ……」
シャーロットが席へ運ばれてきた料理を見て目を輝かせる。
焼き魚。
温かい野菜スープ。
黒パン。
それに、小皿へ盛られた香草料理。
「地方料理だー!」
フレアは既に食べる気満々だった。
「いただきます!」
一番早く手を付ける。
「熱っ!?」
早速舌を火傷しかけていた。
「だから言った」
ルナが静かにスープを口へ運ぶ。
猫舌らしいフレアは、涙目になりながらふーふーしていた。
シャーロットは思わず笑ってしまう。
「えへへ」
「笑い事じゃない!」
「ごめんごめん」
でも楽しそうだった。
食堂の空気も温かい。
旅人達の会話。
食器の音。
煮込み料理の香り。
王都では、ゆっくり食事をする時間も少なかった。
だからこそ、こういう時間が少し新鮮だった。
「お姉さん達、旅の人?」
近くの席に座っていた小さな男の子が話しかけてくる。
「うん!」
シャーロットが笑顔で頷く。
「どこまで行くの?」
「んー、まだ決めてないかな?」
「すごい!」
男の子が目を輝かせる。
その後ろでは母親らしき女性が慌てて頭を下げていた。
「すみません、急に話しかけて……」
「大丈夫ですよ!」
シャーロットが柔らかく笑う。
「旅って楽しいの?」
男の子がさらに聞いてくる。
「楽しいよ?」
「でも疲れる!」
フレアが口を挟む。
「歩くの大変!」
「さっきまで元気だった」
ルナがぼそりと返した。
男の子がくすくす笑う。
「お姉ちゃん達、仲良しだね!」
「えへへ」
シャーロットが少し照れたように笑った。
すると女将が追加の料理を持ってくる。
「おかわりどうぞ」
「えっ、いいんですか?」
「今日は魚が多く獲れたので」
地方の宿らしい大雑把さだった。
フレアが即座に皿へ手を伸ばす。
「やったー!」
「ほんとよく食べるねぇ」
「旅は体力!」
完全に食欲優先だった。
その時。
食堂の奥で、旅人達の会話が少し耳に入る。
「……北の森側、最近また静からしいぞ」
「滅多に人降りてこねぇからな」
「薬草だけは良いんだけどなぁ」
シャーロットが少しだけそちらへ視線を向ける。
森側。
市場でも聞いた言葉だった。
「シャーロット?」
ルナが静かに呼ぶ。
「ん?」
「気になる?」
「ちょっとだけ」
市場で買った薬草茶の袋を思い出す。
森の匂い。
静かな空気。
まだ見ぬ場所。
なんとなく。
少しだけ気になっていた。
「でもまぁ」
シャーロットが笑う。
「今は旅を楽しむ!」
「おー!」
フレアが元気よく返事をする。
その横でルナは小さく息を吐いていた。
たぶん。
この旅は、きっと予定通りには進まない。
そんな予感だけは、もうしていた。




