第2節「市場と屋台 下」
「はいよ」
店主が小さな紙袋を差し出す。
中には乾燥した細葉の薬草が入っていた。
「ありがとう!」
シャーロットが嬉しそうに受け取る。
袋からは、ほんのり湿った森みたいな香りが漂っていた。
「そんなに苦いの?」
フレアが露骨に嫌そうな顔をする。
「気になる!」
「さっき嫌って言ってた」
「気になるのと飲みたいは別!」
ルナが静かにため息を吐いた。
店主はそんな三人を見ながら楽しそうに笑っている。
「まぁ好み分かれる味だな」
「森側の人って、どんな人なんですか?」
シャーロットが首を傾げる。
「んー……あんまり喋らねぇな」
「無口?」
「静かって感じだ。必要以上に近づかねぇし、長居もしない」
店主が顎を掻きながら答える。
「でも悪い奴らじゃねぇよ。薬草の質はすげぇしな」
「へぇ……」
シャーロットが小さく袋を見つめる。
もっと北。
森側。
滅多に降りてこない人達。
まだ知らない場所の匂いがした。
「シャーロット」
ルナが静かに呼ぶ。
「ん?」
「そろそろ宿探した方がいい」
「あっ、もうこんな時間」
いつの間にか空が橙色へ変わり始めていた。
市場の喧騒も少しずつ夜の空気へ変わっていく。
「まだ見たい!」
フレアが抗議する。
「明日も歩く」
「うぅ……」
完全に食べ歩きモードだったらしい。
店主が笑いながら手を振った。
「また来な!」
「うん、ありがとう!」
シャーロットがぺこりと頭を下げる。
市場を離れながら、フレアが横から袋を覗き込んだ。
「ほんとに飲むの?」
「せっかくだし!」
「絶対苦いよ?」
「えへへ……」
否定は出来ない。
でも気になってしまう。
知らない土地の薬草。
知らない文化。
そういうものに触れるのは、なんだか少しわくわくした。
「宿、空いてるかなぁ」
シャーロットが周囲を見回す。
すると通りの先に、小さな木看板が見えた。
『旅籠 木漏れ日亭』
「あそこどう?」
「普通そう」
ルナが短く返す。
「じゃあ決まり!」
フレアが勝手に先へ走っていく。
「待ってー!」
シャーロットも慌てて追いかける。
その後ろを、ルナが静かに歩いていた。
市場の灯りが少しずつ遠ざかっていく。
焼き物の匂い。
人の笑い声。
夕暮れの喧騒。
そんな空気を背中に感じながら、シャーロットは小さく薬草袋を握った。
森の匂い。
まだ知らない場所の匂い。
それが少しだけ、胸に残っていた。




