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第2節「市場と屋台 中」

「薬草屋?」


 フレアが串焼きを食べながら覗き込む。


「うん、ちょっと見てくる!」


 シャーロットは嬉しそうに店の方へ歩いていった。


 市場の奥にあるその店は、小さいながらも独特の香りが漂っていた。


 乾燥薬草。


 煎じ葉。


 保存花。


 王都では見ない種類も多い。


「わぁ……」


 思わず声が漏れる。


 棚には束ねられた薬草がいくつも吊るされていた。


 緑だけではない。


 青みがかった葉。


 赤い茎。


 銀色の乾燥花。


 地方独特の薬草文化が、そのまま並んでいる。


「嬢ちゃん、薬草好きなのか?」


 奥から年配の店主が顔を出した。


「はい!」


 シャーロットがぱっと振り返る。


「これ王都じゃ見ないですよね?」


「北側でしか採れない草だからなぁ」


 店主が棚から小さな束を下ろす。


「冷え対策に使う薬草だ」


「へぇ……」


 シャーロットが目を輝かせる。


「匂い嗅いでみるか?」


「いいの?」


「減るもんじゃねぇしな」


 差し出された葉をそっと受け取る。


 指先で軽く擦ると、少し甘い香りが広がった。


「……すごい」


「面白い匂い」


 いつの間にかルナも隣に立っていた。


 フレアは相変わらず串焼きを食べている。


「薬草ってもっと苦そうな匂いすると思ってた!」


「種類によるよ?」


 シャーロットが笑う。


 店主はその様子を見ながら、少し不思議そうに目を細めた。


「嬢ちゃん、見た感じ旅人だろ?」


「うん!」


「なのに随分詳しいな」


「えへへ、ちょっとだけ勉強してるの」


 本当に“ちょっと”では済まないのだが、シャーロット本人に自覚は薄い。


「ふーん……」


 店主が感心したように頷く。


「最近は薬草の扱い分かる若い奴減ってるからなぁ」


「そうなの?」


「町だと出来合いの薬ばっか使うしな」


 王都も似たような所はある。


 便利になるほど、現場知識は減っていく。


 だからこそ地方支部では、薬草知識もちゃんと教えていた。


「これなんか面白いぞ」


 店主が別の瓶を持ってくる。


 中には乾燥した白い花びらが入っていた。


「夜しか咲かねぇ花だ」


「きれい……」


「乾燥させると安眠用になる」


「へぇ!」


 シャーロットが目を輝かせる。


 フレアが後ろから覗き込んだ。


「眠くなるの?」


「飲み過ぎると寝るぞ」


「ルナに飲ませよう」


「……やめて」


 即座に返された。


 店主が吹き出す。


「仲良いなぁお前ら」


「えへへ!」


 市場の喧騒が遠くで響いている。


 人の声。


 呼び込み。


 笑い声。


 そんな空気の中で、シャーロットは薬草棚をゆっくり見て回った。


 知らない物を見るのは楽しい。


 知らない知識に触れるのは、もっと楽しい。


 それはきっと、誰かを助けるためだけじゃない。


 単純に。


 世界を知る事が嬉しかった。


「……ん?」


 その時。


 棚の隅に置かれていた小さな袋へ目が止まった。


「これ、何ですか?」


 店主がちらりと視線を向ける。


「あぁ、それか」


 少しだけ声色が変わった。


「森側の連中が時々持ってくる薬草茶だ」


「森側?」


「もっと北の方だよ。滅多に降りてこない奴らだ」


 シャーロットが袋をそっと持ち上げる。


 乾燥した細長い葉。


 独特の香り。


 少しだけ、土と雨の匂いが混ざっていた。


「……なんか不思議」


「癖強いぞ?」


「苦い?」


「めちゃくちゃ苦ぇ」


 フレアが嫌そうな顔をする。


「じゃあいらなーい」


「まだ飲んでないよ!?」


 シャーロットは少し迷ってから、小さく笑った。


「一個ください」


「物好きだなぁ」


 店主が笑いながら袋を包み始める。


 その横で、ルナだけが静かに薬草を見つめていた。


「……森の匂いがする」


 小さな呟きは、市場の喧騒に紛れて消えていった。

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