第2節「市場と屋台 上」
村を出てからさらに半日ほど歩くと、街道沿いの小さな町へ辿り着いた。
王都ほど大きくはない。
けれど地方では比較的人が多い場所らしく、入口近くには荷馬車が何台も止まっている。
「おぉー!」
フレアが目を輝かせた。
「なんかいっぱいある!」
通りには露店が並び、焼いた肉の香りや甘い果実の匂いが風に混ざっている。
旅人。
商人。
買い物客。
王都ほど整然とはしていないが、その分だけ活気があった。
「市場かな?」
「……多分」
ルナが静かに周囲を見回す。
人混みはあまり得意ではないらしい。
少しだけシャーロットの後ろへ下がっていた。
「寄ってく?」
シャーロットが振り返る。
「もちろん!」
返事だけは早かった。
フレアはもう屋台の方へ視線が固定されている。
「絶対食べ歩きする気」
「旅の醍醐味だよ!」
堂々と言い切った。
シャーロットは苦笑しながら市場通りへ足を踏み入れる。
すると、すぐに色々な声が飛び込んできた。
「焼き串どうだー!」
「採れたて果実安いよー!」
「薬草まとめ買い歓迎!」
地方らしい雑多な空気。
王都より少し騒がしくて。
でもどこか温かい。
「わぁ……」
シャーロットが小さく目を輝かせる。
並んでいる物も王都とは少し違った。
乾燥果実。
燻製肉。
編み籠。
見慣れない薬草。
地方ごとの特色がそのまま並んでいる。
「シャーロットこれ!」
フレアが勢いよく戻ってくる。
手には串焼き。
既に買っていた。
「早いよ!?」
「いい匂いだった!」
「もう食べてる」
ルナが呆れたように呟く。
しかも二本目だった。
「んーっ、おいしい!」
幸せそうに頬張るフレアを見て、屋台のおじさんが豪快に笑う。
「嬢ちゃん食いっぷりいいな!」
「えへへ!」
「そっちの姉ちゃん達もどうだ?」
「んー……」
シャーロットが少し考える。
いい匂いはする。
でも。
「ルナ食べる?」
「……食べる」
「珍しい!」
「お腹空いた」
静かな声だった。
でも少しだけ素直で、シャーロットは思わず笑ってしまう。
「じゃあ三本ください!」
「毎度!」
炭火の香りがふわりと漂う。
焼き上がった串を受け取ると、ほんのり熱かった。
「いただきます」
一口齧る。
肉汁と香辛料の香りが口に広がった。
「……おいしい」
「でしょ!?」
なぜかフレアが誇らしげだった。
「お姉ちゃん達、旅人かい?」
屋台のおじさんが気さくに話しかけてくる。
「はい、地方巡回中なんです」
「へぇ、最近は物騒だから気をつけな」
「物騒?」
シャーロットが首を傾げる。
「盗賊崩れみたいなのが時々出るんだよ」
「……へぇ」
ルナが静かに呟いた。
その目は少しだけ細い。
「まぁ嬢ちゃん達強そうだけどな!」
「え?」
おじさんが笑う。
「特にそこの黒髪の嬢ちゃん」
ルナは少しだけ沈黙した。
「……別に」
「なんか雰囲気あるぞ?」
「あるある!」
フレアが勝手に頷く。
「ルナ強いよ!」
「お前もだろ」
「えへへ!」
屋台のおじさんが豪快に笑った。
そんな他愛ないやり取りを聞きながら、シャーロットは市場の景色を眺める。
王都から少し離れるだけで、こんなにも空気は違う。
人の暮らしも。
食べ物も。
話す言葉の温度も。
きっと、まだ知らないものが沢山ある。
そんな事を思っていると――
「ん?」
市場の奥に、小さな薬草屋が見えた。
店先には見慣れない葉や乾燥花が並んでいる。
「……あれ」
シャーロットの目が少しだけ輝いた。




