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第1節「地方巡回」

 王都を離れて三日目。


 街道の景色は、少しずつ変わり始めていた。


 石畳は減り、代わりに土の道が増える。


 遠くには小さな畑。


 風に揺れる麦。


 時折、農作業をしている人影も見えた。


「んーっ、いい天気!」


 フレアが大きく伸びをする。


 赤い髪が陽の光を受けて揺れた。


「歩きやすい」


 ルナが静かに周囲を見回す。


 王都近辺より空気が澄んでいる。


 人も少ない。


 だからか、少しだけ肩の力が抜けていた。


「えへへ、のどかだねぇ」


 シャーロットが柔らかく笑う。


 背負い袋を揺らしながら、ゆっくり歩く。


 急ぐ旅ではない。


 地方巡回。


 だからこそ、途中の村や町も見て回る予定だった。


「でも歩きっぱなしだと暇ー」


 フレアがぶーぶー文句を言い始める。


「まだ昼前」


「もう疲れた!」


「早い」


 ルナが即座に返した。


「ルナ冷たい!」


「事実」


 いつものやり取り。


 シャーロットは苦笑しながら、道端に咲いている小さな花へ視線を向ける。


 王都ではあまり見ない花だった。


「きれい」


「雑草じゃない?」


 フレアが覗き込む。


「うーん、でもちゃんと咲いてるよ?」


「その理論だと全部花になる」


 ルナがぼそりと呟いた。


 そんな会話をしているうちに、小さな村が見えてくる。


 木造の家が並び、畑に囲まれた静かな場所だった。


「少し休憩しよっか」


「賛成!」


 フレアが即答する。


 村の入口近くには、小さな井戸と休憩用の木椅子が置かれていた。


 旅人向けなのだろう。


「失礼しまーす」


 シャーロットが軽く声を掛けながら腰を下ろす。


 すると、近くで洗濯をしていた女性がこちらを見た。


「あら、旅の方かい?」


「はい! 地方巡回中なんです」


「巡回?」


「えっと、診療とかお手伝いとか」


 シャーロットが笑う。


 女性は少し驚いたように目を丸くした。


「へぇ……お医者さん?」


「そんな立派な感じじゃないよ?」


「でも薬草の匂いする」


「あ、本当だ」


 フレアが自分の袋を覗き込む。


 中には簡易薬草セットが入っていた。


 地方巡回では必需品だ。


「最近ちょっと風邪が流行っててねぇ」


 女性が困ったように笑う。


「熱出す子が増えてるんだよ」


「熱?」


 シャーロットが少し表情を引き締める。


「重い症状の人はいますか?」


「うーん、そこまでじゃないけど……」


「診てもいい?」


「え?」


「少しだけなら」


 女性は驚きながらも、すぐに頷いた。


「じゃ、じゃあお願いしていいかい?」


「うん!」


 フレアが横で小さく笑う。


「始まったねぇ」


「……いつもの」


 ルナも慣れた様子だった。


 結局。


 シャーロットはどこへ行っても、困っている人を見ると止まってしまう。


 それを二人とも、もうよく知っている。


 しばらくすると、村の子供達がぽつぽつ集まり始めた。


「旅人さん?」


「お姉ちゃん何してるの?」


「お薬の人?」


 小さな声が周囲から聞こえてくる。


 シャーロットは笑いながら手を振った。


「えへへ、こんにちは」


 その笑顔を見て、子供達の警戒が少し緩む。


 王都では、聖女として見られる事も多い。


 でも地方では、まだ普通の旅人として接してくれる人も多かった。


 それが少しだけ、心地良かった。


「熱は軽そうですね」


 シャーロットが診察を終えて微笑む。


「ちゃんと水分取って、今日は暖かくしてください」


「ありがとうねぇ」


 女性が何度も頭を下げる。


「お代は……」


「大丈夫!」


 シャーロットが慌てて手を振る。


「視察中だから気にしないで!」


「でも……」


「困った時はお互い様だよ」


 柔らかい声だった。


 女性は少しだけ目を丸くしてから、小さく笑った。


「優しい子だねぇ」


「えへへ……」


 照れくさそうに笑うシャーロット。


 その横で、フレアがぼそりと呟く。


「またお礼に野菜もらいそう」


「ありえる」


 ルナが静かに頷いた。


 実際、その予想は半分当たっていた。


 帰る頃には、袋の中へ野菜が少し増えていたのだから。

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