47.213番 悠遊旅書店さん
私が5月に入店してから、悠遊旅書店さんの棚にあった本を何冊か売る機会があった。
次第に在庫は減ってきて棚はスカスカになり、残り1冊にまで減ってしまった。
しかもその1冊、心無いお客さんのイタズラに合ってしまった。
私がお店に遊びに行ったときに、店番の人が困惑したように本を見せてくれた。
「何ページにも渡ってページが折られているんです。運営さんに相談した方がいいですよね」
私も触ったことがあるけれど、その古本の状態は綺麗で、ページは折れていなかった。
店番はその時に都合がつく棚主がやる決まりで日替わりだから、いつイタズラされたかもわからない。
防犯カメラは設置されているけれど、死角になった場所でやられていたら、もうどうしようもない。
(ここの棚主さんはどうしたんだろう?)
そう思っていたら、8月になってようやくお目にかかることができた。
「仕事が忙しくなって……半年ぐらい放置してました!ヤバい!」
お仕事のかたわら、お薦めの本を置いている棚主さんだ。補充のために何冊か本をお持ちだったけれど、それを置いてもまだスカスカだった。
イタズラの件を聞き、「放置してたからなぁ」と反省されている。
「またすぐ補充に来ないといけませんね」
「そうですね。まいったなぁ。読書は心の旅っていうか、悠々と旅するように心を遊ばせたくて。しばらくそんな余裕を失ってたなぁ」
そんな会話を交わしてから、またしばらく間が空いた。
店番のとき以外にも、棚のようすを見に行くことはある。そんなときに他の棚にも目をやれば変化に気がつく。
棚主さんとはお会いしなかったけれど、悠遊旅書店さんの棚にも本がまた補充されるようになった。
渋谷という土地柄、お店の利用客には会社員も多く、棚主さんと同世代らしい若い方が買って行かれる。
補充された棚からは、また順調に本が売れていった。
そしていつの間にか、ただ本を置きっぱなしだった棚は、綺麗に模様替えされていた。
「僕に刺さった一文を本文から抜きだして、カードを作ったんです」
1冊1冊にカバーがつけられ、本文がラミネート加工されたカードが添えられている。上品な落ち着いた色合いで、つい手に取って眺めたくなる。
本ごとに内容が違い、栞として持ち帰られる方も多い。
「このカード、好評ですよ」
「そうですか、よかった。どうしてこの本を薦めたいのか、その気持ちがお客さんに伝わればいいなって」(ニコッ)
めちゃめちゃ爽やかで穏やかな好青年だ。本にイタズラされたことを、怒るでもなく嘆くでもなく、自分なりに考えて工夫されての行動だった。
手間はかかる。けれど本が大切に扱われる方が、お客さんも棚主も嬉しい。だからまず自分から行動する。そんな棚主さんの伝えたい想いが詰まった本棚は、都会で働く人たちの心のオアシスになっているようだ。
仕事が忙しくとも、悠々と旅するように心を遊ばせる。いいコンセプトだ。










