7. 底辺扱いはいい。でもおじさんとの恋人疑惑は絶対に許さない
7. 底辺扱いはいい。でもおじさんとの恋人疑惑は絶対に許さない
竜の寝床の近くで出会った、私たちと同じギルド冒険者のミーユ。
16歳と言っていたから、私より二つ年下だ。鮮やかなピンク色の髪に、同じくピンク色の大きな瞳。小動物のようにくるくると変わる表情は、とても可愛らしい印象を受ける。そしてスタイルは……うん。私よりほんの少しだけ、微妙に発育が良さそうだ。ほんの少しだけね?
「私はエルン。こっちの機嫌が悪そうなおじさんはブレイドさん」
「……誰がおじさんだ」
「エルンにブレイドね、よろしく!あっ、私敬語とか苦手だから普通に話しちゃうけど、別にいいよね?」
屈託のない笑顔で距離を詰めてくる、とても明るい子だ。私には絶対に真似できないコミュニケーション能力に、少しだけ羨ましさを覚える。
「う、うん。いいよ……」
「敬語はどうでもいいが、お前はなぜキラービーの大群に襲われていたんだ?」
「ああ、それはキラービーの巣からこのエーテルドロップを手に入れたからだよ!手に入れるまでは完璧だったんだけど……最後にちょっとしくじっちゃってさ?見つかって命からがら逃げてきたってわけ」
ミーユは自慢げに、小瓶に入った黄金色の液体を揺らしてみせる。
「ミーユ、1人でそんな危険なことをしてたの!?危ないよ。依頼を受ける時は、ちゃんとパーティーを組まないと!新人はソロで討伐や採取に行かないのがギルドの鉄則だよ。パーティーに在籍してないなら、まずは掲示板とかで募集するんだよ?」
「掲示板?そうなんだぁ。パーティーってどうやって組むのか知らなかったんだよね。それならこんなに苦労して走ることなかったなー。教えてくれてありがとね、エルン!」
追放29回の私がパーティーのことを語ってるのが笑えるけど。冒険証をもらった時のギルドの新人講習、絶対に聞いてなかったでしょこの子……。
それに、パーティー募集の張り紙なんて依頼掲示板のすぐ横にデカデカと貼ってあるのに。呆れてしまうが、無茶をした新人が無事で良かったと心から思う。
「とりあえずミーユ。今度からはちゃんと掲示板を見ないとダメだよ?あとは受付嬢の話はしっかり聞くこと」
「ごめんごめん、次からはちゃんと聞くって。それより、2人はなんでこんな危険なところにいるの?」
「私たちはこの先にある『竜の寝床』でグリムドラゴンを討伐するんだよ。で、今日はもう日が落ちてきたから、ここで野営をする予定なの」
本当は野宿なんて絶対に嫌なんだけどね。
すると、ミーユは私とブレイドさんを交互に見つめ、何か閃いたように両手をポンと合わせた。
「うーん……あのさ。私も一緒にドラゴン討伐について行ってもいい?」
「えっ!?」
「何が目的だ?お前の依頼ではないだろう。正式にパーティーを組んでいないお前が手伝ったところで、ギルドからの報酬も実績も得られんぞ」
ブレイドさんの言うことはもっともだ。それに、ギルド冒険者の先輩として、こんな無防備な新人をドラゴンの巣に連れて行くような無茶はさせたくない。
「そんなことないよ、得はあるもん。だって私、まだまともに魔物と戦ったことないし。強い魔物の討伐を間近で見て、経験を積みたいって話だよ。それに私、今気づいちゃったんだけど……2人って、ギルドで噂になってる底辺パーティーでしょ? 『便利屋』と『死神』の」
底辺パーティーか……。面と向かって言われると少し刺さるけど、私たちの評判を考えれば当然の呼び名だ。
「ちなみに、2人は恋人同士なんでしょ?そんな噂もあるんだけど?」
「はぁ!?違うよ!なんで私がこんなおじさんと!」
「オレはガキに興味はねぇ」
最悪だ。どんな変な噂の広まり方をしているんだ、王都のギルドは。最悪底辺はいい。このおじさんとこの美少女が……ふざけるな、絶対に恋人同士なんか許さないから
「あははっ、ごめんごめん!まぁとりあえず、私も一緒について行ってもいいよね?エルン、ブレイド、お願い!」
「そう言われても……ブレイドさんどうしますか?」
「ああ?このパーティーのリーダーはお前だろう?お前がいいならいいんじゃないのか」
はい?私がリーダーなんて初耳なんですけど。手続きをしたのはブレイドさんとルナレットさんだし。
もちろん、ミーユに経験を積ませてあげたい気持ちはある。それに正直なところ、未知のドラゴン相手なら、2人より3人の方が少しでも心強い。何もないのについてきてもらうのは気が引けるけど……今は背に腹は代えられない。
「……ミーユがそれでいいなら。よろしくね」
「うん!よろしく!」
日が完全に落ちると、竜の寝床の周辺はひんやりとした空気に包まれた。
パチパチとはぜる焚き火の光だけが、周囲の暗闇を辛うじて遠ざけている。私は固い干し肉と水で簡素な夕食を済ませながら、黙々と剣の手入れをするブレイドさんと、自分の荷物を漁っているミーユを交互に見つめた。
「ねぇエルン。エルンはどうして冒険者やってるの?」
不意に、ミーユが小首を傾げて尋ねてきた。炎に照らされたピンク色の瞳が、無邪気な好奇心に揺れている。
「私?私は……10年前に世界を救った伝説のパーティー、『閃光』に憧れて王都に出てきたんだ。でも、私には飛び抜けた才能もないし、器用貧乏だから『便利屋』なんて呼ばれて、今まで29回もパーティーを追放されてきた。次で結果を出さないとクビになる、崖っぷちなんだけどね」
我ながら情けない身の上話だ。それに、その『閃光』の元メンバーであるブレイドさんの目の前でこんな憧れを語るのは、すごく気恥ずかしい。
けれど、ミーユは目を丸くした後、ふふっと楽しそうに笑った。
「憧れかぁ……しかも29回も追放されて、それでも諦めずに冒険者やろうとしてるんだ!エルンってば、すごいメンタルだね!」
「褒めてる?それ」
「もちろん!普通なら心折れてるよ。エルンってすごい人なんだね!」
屈託のない笑顔。その言葉の真意は分からないけれど、不思議と嫌な気はしなかった。
「……おい、お前ら。無駄口を叩いてないで早く寝ろ。明日の相手はドラゴンだぞ」
ブレイドさんの低く鋭い声が飛んでくる。手入れを終えた彼の視線は、ただの野営にしては、やけに鋭く周囲を、そして心なしかミーユを警戒しているように見えた。
「はーい!おやすみ、おじさん!」
「……誰がおじさんだ」
ミーユは毛布にくるまり、数秒後には規則正しい寝息を立て始めた。本当に図太い子だ。私も目を閉じ、深く息を吐く。
その日はブレイドさんが夜通し見張りをしてくれることになり、私は今日一日の疲労もあってか、固い地面の上でもすぐに眠りに落ちてしまった。
明日はグリムドラゴンの討伐。失敗は許されない。




