13. 【約束のアクアマリン】~エピローグ~
13. 【約束のアクアマリン】~エピローグ~
あれから一週間がたった。ミーユはライゼンバッハ帝国に戻ることなく、そのまま私たちのパーティーに在籍をしている。
ちなみに私の恐れていた、ライゼンバッハ帝国の軍勢や大砲なんかは、さすがに襲って来ることはなかった。まぁ襲ってきても何とかなるはず。私の『相殺の調停』のスキルなら。
そんなことを考えていると、ミーユが受付からシルバーランクの依頼書を抱えて戻ってきて、それをテーブルの上にドサッと置いた。また大量だなぁ。
「よっと。今受けられるシルバーランクの依頼書、全部借りてきたよ!ちゃちゃっと次の依頼を決めちゃお!」
「ありがとうミーユ」
「次はどんな依頼がいいですかね?」
「えっと私はね……」
私の横では、ミーユとアティがそんな楽しそうな話をしながら依頼を選ぼうとしている。そんな様子を、ブレイドさんは全く興味無さそうにお酒を飲みながら眺めていた。なんでこのおじさんはこんなにもやる気がないのか?
「あの。一束忘れてますよ、ミーユさん?」
「え?あっ、サリア」
「まったくあなたは。昔からそういうそそっかしいところは変わらないんですから」
そこに、残りの依頼書の束を持ってサリアさんがやってくる。
そう。サリアさんはあの後、新しくこのローゼンシャリオのギルドの受付嬢として働くことになったのだ。しかも『クール系美人受付嬢』として、周りの荒くれ冒険者たちからもいきなり絶大な人気が出ている。
解せん。なぜ私はいつまで経っても『壊し屋』なのか……私だって最強無敵の美少女なのに。
不満に思っているとブレイドさんと目が合い、彼は何も言わないが、私の事を見て深く、大きな溜め息をついた。
「あぁ~!ブレイドさん、今私のことエッチな目で見た!」
「ああ?見てねぇよ。誰かさんの言葉を借りると、そりゃただの被害妄想じゃないのか?」
「むむ。いい度胸ですね。この最強無敵のギルド冒険者の美少女の私に喧嘩を売るなんて!表に出てください!ハンデとして左手だけでボコボコにしてあげますよブレイドさん!」
「美少女?どこがだよ」
このおじさんは!本当に口が悪いんだから!
私がプンスカと怒っていると、ブレイドさんは呆れたように私を完全に無視して酒を飲み始めた。もう!いいですよーだ! ふんっ!
「それよりサリア。仕事は慣れたのか?」
「はい。おかげ様で」
「ルナレットが、すごく仕事が出来るって喜んでたぞ?」
「それなら嬉しい限りですね。ギルドの皆さんは優しい方たちばかりですから。私もとても助かっています」
クールに淡々と答えるサリアさん。その落ち着いた様子に、なぜかミーユが文句を言い始める。
「ねぇサリア。あなた、ギルドの看板娘の受付嬢なんだから、もう少し愛想良く笑ったほうがいいんじゃない?」
「私はこれが普通です。ミーユさんこそ、私に文句なんか言ってないで、少しくらい落ち着いて行動したらどうなんですか? もう大人なんですから」
ん?大人?ミーユって16歳じゃないの? 確か出会ったときは、そんなことを言ってたような気がするんだけど……。
「え?サリアさん、ミーユって私やアティより年下ですよね?」
「はい?またまたご冗談を。ミーフィルユ様……いやミーユさんはもう21ですよ。立派な大人ですが?エルンさんたちには、そう言ってないのですか?」
「あっ……やばっ」
ミーユを見ると、さっと目をそらして不自然な口笛を吹き始めた。このピンク……確信犯だな。ギルド登録の時に堂々とサバを読んでたよこのピンクは。
そして一番ショックを受けているのはアティだ。顔を耳まで真っ赤に染め上げ、プルプルと小刻みに震えている。
「わ、私……っ!洞窟の前で『私の方が2つ上のお姉さんですから頼ってくださいね!』って……っ!すっごくドヤ顔で、偉そうに年上ぶって慰めて……っ!あああぁぁ今すぐこのハンマーで自分の頭をカチ割りたいくらい恥ずかしいですぅぅっ!!」
「ア、アティ!違うの、落ち着いて!帝国のミーフィルユ皇女様は21歳だけど、駆け出し冒険者のミーユちゃんは永遠の16歳なの!分かるよね!?冒険者としての精神年齢だから!ね!?」
ミーユは必死に謎理論を私たちに押し付けようとしているようだ。私は深く溜め息をつく。
「とりあえずミーユは後で裏路地で正座でお説教ね。アティもそれでいいかな?」
「はい、もちろんです。むしろミーユさんの本当の年齢を知った今のほうが、本気で怒れる気がします。ハンマーの準備をしておきますね」
「ちょっ、待って2人とも!ハンマーはダメ!ねぇ助けてブレイド!」
「……オレに振るなよ。大人なら自分で何とかしろ」
ブレイドさんは相変わらず我関せずでお酒を飲んでいる。まぁこれはいつも通りだから放っておこう。ミーユは頬をプクッと膨らませて、恨めしそうにサリアさんを怒り始める。
「もう!なんで言っちゃうかなぁ~サリアは?空気読めないなぁ~」
「何が空気ですか。だいたいミーユさんはいつも落ち着きがないんですよ。もう少し自分の立場を考えて、しっかりしたらどうですか?ライゼンバッハにいる時も……」
「それ今関係ないでしょ!」
「関係あります。私がどれだけミーユさんのせいで……」
二人はそのまま言い争いを始めてしまった。騒いでいるのはミーユだけなんだけども。まぁ、喧嘩するほど仲が良いとも言うし……私はその様子を頬杖をつきながら、微笑ましく思う。
「ふふっ」
「どうしたんですか?エルンさん」
不思議そうに私の顔を見るアティに、自然と柔らかい笑顔を向ける。
「んーん。ただ、二人がすごく楽しそうだなって思ってさ」
「そうですね」
本当に2人は、主従ではなく、心を許し合った実の姉妹のように仲がいい。
私はふと、言い合う二人の胸元に目をやった。
そこにあるのは、お揃いのアクアマリンのペンダント。
かつては、鳥籠の中で身を寄せ合うためだけの、誰にも言えない内緒の贈り物だった。そして、命を懸けて身代わりになってでもお互いを護り抜こうとした、切なくも強い『約束』の証。
でも、今はもう違う。
息苦しい主従という重い鎖から完全に解き放たれ、ただの『ミーユ』と『サリア』として、対等に笑い合い、遠慮なく文句を言い合っている。
二人の胸元で揺れる青い宝石は、まるでもう何も隠す必要などないのだと言わんばかりに、ギルドの温かいランプの光を反射してキラキラと澄んだ輝きを放っていた。
あの時の約束が、間違いなく二人を『本当の家族』にしたのだ。
お互いがお互いを信頼し、これからは誰に縛られることもなく、鳥のように自由に生きていく。彼女たちが手に入れた自由という名の翼が、いつまでも力強く羽ばたいていけるように。
胸元で寄り添うように光る約束のアクアマリンは、二人の明るい未来を祝福するように、いつまでも美しく青く輝き続けるのだった。




