9. レベルが違う?死神と物理聖女の無双が止まらない件
9. レベルが違う?死神と物理聖女の無双が止まらない件
-ゴーバーン村-
山奥のゴーバーン村は、今まさに危機が訪れていた。それは『黒蠍』の盗賊たちが、村人から金品を奪い、家屋を焼き払おうとしていたからだ。
松明の不気味な赤い炎の光のみで照らされた村の広場には、怯える村人たちと、そしてライゼンバッハ帝国から単身で第三皇女を探しにきた皇子、ウィリアム=ライゼンバッハの姿もあった。
「皇子!お下がりください!危ないですよ!」
「ひっひっひ、動くなよ?騎士気取りのお坊ちゃんが少しでも動いたら、このガキを生きたまま丸焼きにしてやるからな?」
「さすがボルトのアニキ!容赦ねぇぜ!」
部下たちから呼ばれている大柄な盗賊・ボルトは、村の幼い子供の髪を乱暴に掴み、人質に取って松明を近づけて脅している。
それを見たウィリアム皇子は、剣を捨てて前に出た。
「卑怯者め。私が代わりに人質になる。その罪のない子供をはなせ!」
「ほう、正義感の強いおバカな皇子サマだ。でもダメだ。この村は証拠隠滅のために焼き尽くせと、頭からの指示なんでな。この村を焼き尽くして、先ほど捕らえた第三皇女を殺し、王家の秘宝を奪う。そういう筋書きだ」
「貴様ら……我が妹も殺すつもりなのか!?」
「ああ。だからこの皇女誘拐の事実を知るお前ら村人は、全員ここで死んでもらう。それが頭の指示だ。さぁ野郎ども、まずはこの村を焼き払え!」
盗賊たちに慈悲はない。護衛もいない単身の皇子と村人たちだけで、この絶望的な危機を覆すことなど到底できない。それでもウィリアムは剣を強く握り直し、子供を庇うように一歩前へ出ようとした。
――その時だった。
とてつもなく重く鈍い粉砕音が広場に響き渡る。
人質の子供を取り囲み、松明を掲げていやらしい笑いを浮かべていた部下の盗賊3人が、まるでおもちゃのようにまとめて数メートル先へ吹き飛ばされ、石壁に激突して無様に転がった。
「ぐあああぁぁぁぁ!!!痛てぇよアニキ……あばらが、あばらが全部砕けたぁぁっ!!」
「ひぃぃっ!?な、なんだ今の威圧感は……!」
「何だ!?何が起きた!?」
盗賊たちが慌てて振り返るより早く、轟音を立てて《《それ》》が宙を舞う。三人を一振りの風圧と衝撃だけで吹き飛ばした巨大な鉄塊――超重量のバトルハンマーだ。
それは流星のような速度でボルトの顔面をも捉えようとしたが、彼は山賊特有の野生の勘で間一髪身をよじってかわした。
ズドォォォンッ!!
ボルトのすぐ横の地面にハンマーが激突し、クレーターのような大きなすり鉢状の穴が穿たれる。ブオォンッ! という凄まじい風切り音と衝撃波が巻き起こり、周囲の盗賊たちは悲鳴を上げて次々と尻餅をついた。
「チッ……外しましたか。でも、人質の子供を無事に助けられて良かったです!」
もうもうと舞い上がる砂埃が晴れると、そこには地面に深くめり込んだ自分よりも巨大なバトルハンマーを、片手でスポンと軽々と引き抜き、ヒョイと肩に担ぎ直す少女の姿があった。美しい金髪を風に揺らし、彼女――アティは、血生臭い戦場には全く似かわしくない、聖女のような慈愛に満ちた微笑みを浮かべている。
「ああ。上出来だアティ。ただ、いくら相手がクズだからって、あまり単身で突っ込むな」
「すいません。卑怯な真似を見ていたら、いてもたってもいられなくて」
そう、ブレイドとアティが進んだ左の道の先にはミーユはいなかったが、襲われているゴーバーン村があった。二人は村の異変に気づき、助けに飛び込んできたのだ。
「あ、あの……あなたたちは一体?」
「私たちはローゼンシャリオ王国のギルド冒険者ですよ!仲間と一緒に第三皇女を探しに来たんです。どうやら、もう村にはいないみたいですけど……」
「あなたはライゼンバッハ帝国の皇子、ウィリアム=ライゼンバッハとお見受けする。間違いないですか?」
「あ、ああ、そうだ。だが、私がこの村に辿り着いた時には、すでに遅かった……。ペンダントを持った我が妹は、私が到着する直前に奴らの本隊に捕らえられ、山へ連れ去られた後だったんだ。……もう少し早く到着していれば!」
ウィリアムは悔しそうに地面を睨みつけた。
その発言を聞いて、ブレイドとアティはすぐに気づく。皇女が山へ連れ去られたなら、右の山道を進んだエルンの先に、必ずミーユもいるということに。
そして、大柄のボルトが凶悪な笑みを浮かべて言い放つ。
「ひっひっひ、その通りだ!すでに頭の部隊が『アクアマリンのペンダント』を持った女を引っ捕らえて山へ引き上げた後だったからな!皇子サマは一足遅かったってわけだ。第三皇女は今頃、アジトで頭がじっくり可愛がってる頃だろうよ。王家の秘宝はオレたちの物だ!」
「……アティ。皇子と村の皆を頼む。あいつはオレがやる」
「わかりました。任せてください! ここにいる皆さんは、私が絶対に守ります!」
ブレイドはそう言うと、黒いコートを翻して静かに剣を抜き、ボルトの前に向かって歩み出る。その足取りは、散歩にでも行くかのようにゆっくりと余裕があった。
「なんだお前?まさか、このオレと一対一でやるつもりか?」
「見りゃわかるだろう?お前みたいな頭の悪いクズを相手にするのは疲れるんだが……大人しく武器を捨てて帰れ。今すぐ帰るなら、命だけは助けてやるよ」
「ああ!?ふざけ……!」
ボルトが怒りに任せて大剣を振り被ろうとした、まさにその瞬間だった。
ブレイドの姿が、ゆらりと陽炎のようにブレた。
――次の瞬間には、彼はすでにボルトの背後に静かに立ち尽くしていた。
風を切る音すらない。
一瞬の静寂の後、ボルトの左腕が、握りしめた大剣ごと肘から先で鮮やかに切断され、一拍遅れてドサリと重い音を立てて地面に落ちた。
「え……?」
傷口から血が噴き出すより早く。腕を斬られたボルト自身も、それを見ていた村人たちも、現実に何が起こったのか全く脳の理解が追いついていなかった。
それは、伝説の『閃光』の元メンバーである、ブレイドの圧倒的な実力を見せつけるものだった。
「ひっ……!?ぁ……あ?」
「今なら左腕だけで勘弁してやるよ。もし帰らないのなら、お前は今、ここで……死ぬんだな?」
振り返ったブレイドの冷たく暗い瞳に見下ろされ、ボルトは数秒遅れてやってきた激痛に顔を歪める。
「ぎぃやああぁぁっ!!ふざけるなぁぁ!!!!殺せ!野郎ども、こいつを殺せぇぇっ!!」
ボルトの叫びに呼応し、残っていた十数人の盗賊たちが一斉にブレイドに飛びかかる。四方八方からの武器の雨。
「……バカ相手は、本当に疲れる」
ブレイドは深くため息をつき、無造作に剣を構えた。
盗賊たちが束になろうと関係ない。伝説と呼ばれた元『閃光』のブレイドとただの山賊とでは、基礎となる身体能力も、踏み込んできた修羅場の数も、剣術の次元も――文字通り『格』が違いすぎた。
無駄のない最小限の歩法で、迫り来る刃の群れをことごとくすり抜け、その手から放たれる銀色の剣閃だけが、夜の闇に幾重にも冷たい軌跡を描いていく。
「がはっ!」
「ぐぉっ!?」
盗賊たちは自分たちが斬られたことすら理解できないまま、次々と武器を砕かれ、急所を外した重傷を負ってその場に崩れ落ちていく。
最後に残ったボルトも、脳天から無造作に振り下ろされたブレイドの剣の腹で頭をカチ割られ、断末魔すら上げられずに白目を剥いて地面に沈んだ。
盗賊に襲われていたゴーバーン村で、『黒蠍』と対峙したブレイドとアティは、誰一人傷つけさせることなく、その圧倒的な力で制圧を完了させたのだった。




