8. 【孤独な背中】たった一人の大切な人。私たちが必ず助け出す!
8. 【孤独な背中】たった一人の大切な人。私たちが必ず助け出す!
ザルガン洞窟の依頼を終えたはずなのに、なぜかミーユが戻って来ない。なんかトラブルでもあったのかな?
そんなことを思っていると、困った顔をしたルナレットさんが、報酬の入った重そうな布袋を持って私たちのテーブルにやってきた。
「おいルナレット。何でお前がそれを持ってくる。ミーユはどうした?」
「なんか急ぎの用事があるって、ものすごい青ざめた顔して、今さっきギルドを飛び出していっちゃって……」
「え!?あの、ルナレットさん!その時、ギルドで何か変わったことや、耳に入った噂とかありませんでしたか?例えば……ライゼンバッハ帝国の皇女探しの件とか!」
今考えられるのはそれくらいしか思い付かない。ミーユが、報酬も受け取らず、しかも私たちに何も言わずに出ていくなんて余程のことだ。
「えっと確か……掲示板の前で冒険者たちが騒いでたわね。懸賞金が一気に200万Gに倍増したのと、西の山奥のゴーバーン村の近くで『アクアマリンのペンダントをした皇女様らしき人物』が目撃されたって。あとは……西のクラグ山を縄張りにしている『黒蠍』っていう、凶悪な山賊と盗賊の複合集団がいるんだけど……もしかしたら、その連中に捕らえられているかもしれない、っていう情報が更新されたのよ」
「それだ……マードックさんの情報と同じだ。ブレイドさん!私たちも急いでミーユのあとを追いましょう!ミーユはきっと、たった一人で助けに行ったんです。その秘宝を持つ女性を!」
「だろうな。アティ、洞窟から帰ってきたばかりだが動けるか?」
「はい!ミーユさんは私たちの大切な仲間です。疲れたなんて言ってられませんよね!戦闘も回復も、私に任せてください!」
こうして私たちは、ミーユのあとを追って急いで西の山奥にあるゴーバーン村に向かうことにした。
正直、もう日が暮れてしまう時間帯だ。それでも、一人で凶悪な盗賊の山へ向かったミーユの事が心配でたまらなくて、私たちは足場の悪い山道へ向けて走り続けている。
「そういえばブレイドさん、ルナレットさんが言っていた『黒蠍』っていう集団、分かりますか?」
「存在自体は聞いたことがあるが、詳しくはわからん。ただ、山賊と盗賊の複合集団なら、この険しい山という地形はあいつらに圧倒的な地の利がある。まだ戦うと決まったわけじゃないが、奇襲や罠には気をつけたほうがいい」
「もし正面から戦うことになっても、私がハンマーでミンチにしてボコボコにしますから安心してください!」
アティはハンマーを軽くポンポンと叩きながら俄然やる気を出している。それはすごく頼もしいけど、できれば戦わずにミーユと合流できるのが一番いいんだけどね。
しばらく走ると、いよいよ本格的な山道に入る。もう辺りは完全に日が落ちて暗くなっている。
「真っ暗になってきましたね。ミーユは無事なのかな?もしかして、もう『黒蠍』にやられてたら……」
「エルン。悪いことを考えるな。その焦った考えで戦闘になったら、冷静な判断が出来なくなるぞ」
「ブレイドさん……すみません」
確かにブレイドさんの言う通りだ。私は両手で自分の頬をパンッと叩き、悪い考えを吹っ切る。大丈夫。私たちが、絶対にミーユを助け出すんだ。
その時、ふと思い出したかのようにアティが話し始めた。
「あの、ひとつ聞いていいですか?その目撃された、秘宝らしき物を持つ女性って、本当に皇女様なのでしょうか?」
「さぁな。だが、ミーユの慌てようからして、皇女であろうとなかろうと『その女性がアクアマリンの秘宝を持っている』という事実は変わりないだろう」
ミーユはその女性と深い関係があるのは間違いない。その答えを、アティが静かな声で教えてくれる。
「……ミーユさん、洞窟に向かう前、私に言ってたんです。今まで自分の事を心から認めてくれた人が『たった1人しかいなかった』って。もしかしたら、その女性がそうなのかもしれませんね。だから、ギルドで『黒蠍』に捕まったと聞いて……」
「オレたちに黙って、自分の命を投げ出してでも1人で助けに出ていくくらいだからな。その女性が、あいつの『たった1人の大切な人』というのは間違いないだろうな」
「ミーユ……」
――今まで自分の事を心から認めてくれた人が、たった1人しかいなかった。
それはつまり、ミーユが生まれてからずっと、誰にも本当の自分を認めてもらえない深い孤独の中にいたということ。いつも飄々と振る舞うあの明るい笑顔の裏に、そんな悲しくて重い過去をたった1人で隠し持っていたなんて。
早く。一秒でも早く、ミーユを助けに行かなくちゃ。
そのまま月明かりすら届かない暗い獣道を進んでいくと、道が左右に分かれている『分かれ道』にたどり着いた。木々が不気味な影を落としており、正直、もう暗すぎてどっちの道がどこに繋がっているか、足跡の有無すらまったくわからない。
「分かれ道……」
「ミーユさんはどちらに行ったんでしょうか?」
「うーん……分からない。間違った道を選んだら時間の無駄だし、どうしますかブレイドさん?」
すると、ブレイドさんが私とアティを交互に見て指示を出してきた。
「ここで考えても無駄だ。1つ分かるのは、ミーユは間違いなくその女性が捕まっている場所へ真っ直ぐ向かっているということだ。あいつは神格スキル『鷹の目』が使えるからな。暗闇でも関係なく目的地を見据えているはずだ」
「確かにそうですね!ミーユさんはそのスキルで、もう捕まっている場所を透視して見ている可能性がありますね……」
「ああ。ただ、オレたちにはどちらに進んだか分からないし、時間もないかもしれない。エルン、お前は1人で右の道を進め。オレとアティは左の道に進んでいく。……お前のスキルなら、1人でも大丈夫だろ?」
私は力強く首を縦に振る。もちろん、防御に関しては私は無敵だ。それに、今の私には新しい優秀な相棒もいるしね。私は左の腰に差した、マードックさんに作ってもらった魔法装具の柄をギュッと力強く握りしめる。冷たい金属の感触が、不思議と私の心に絶対の安心感を与えてくれた。
「よし。それでいくぞ。エルン、何があっても無理はするな。気をつけろよ」
「はい、ブレイドさんとアティも気をつけてね!」
私たちは二手に分かれ、月明かりすら届かない漆黒の山道へと足を踏み入れていく。
一寸先も見えない暗闇で、右が正解なのかもわからない。それでも、待っていて、ミーユ。私たちが必ず追いついて、あなたの大切な人を一緒に助け出してみせるから。
――あなたはもう、1人なんかじゃないんだから!




