5. 【致命的な失言】元カノ疑惑でからかったら激重トラウマだった件
5. 【致命的な失言】元カノ疑惑でからかったら激重トラウマだった件
私はあれから『魔法装具』を何度も使ってみる。本当にどんな形でも形成できるみたいだ。剣の長さや大きさも自由自在に変化させられるし、まぁその分魔力の消費も大きいんだけどね。
そんなふうに目を輝かせている私を見て、ブレイドさんがまたケチをつけてくる。
「お前は新しいオモチャを与えられた子供か?無駄に魔力を消費するなよ。考えればわかるだろう?もし帰り道で魔物に襲われたり、何かあった時どうするんだよ。ったく、危機感がねぇな」
「その時はブレイドさんが戦えばいいのでは?何も私だけが戦うわけじゃないですよね?」
ムカつく!この人、私がやることを絶対に褒めることないよね!?私が褒められたのってアティを連れてきた時だけ。それ以外はいつも文句しか言わない。気に入らない!この『魔法装具』で成敗してくれようか?
「ダンナ、いちゃつくなら店の外でやってくれよな?」
「マードック、お前も眼鏡をかけろ。見えてないぞ。それよりそろそろ本題に入ってもいいか?」
「え?本題?」
「あのなエルン。バカみたいにはしゃいでる子供のお前に言っておくが、その魔法装具は本題のついでだ、ついで。勘違いするなよ」
うう~っ!また嫌み言ってきた!このおじさん、絶対私でストレス発散してるでしょ!
「そのくらいにしてやれよダンナ。ライゼンバッハの皇女の件、ちゃんと調べておいたからよ」
「えぇ!?マードックさん?」
「オレは一応こう見えても、少しは名の知れた魔法鍛冶屋なんだ。各国からお忍びでオレの武器を買ったり、魔法武器作成の依頼を受けたりしてるんだぜ?そしてライゼンバッハ帝国のお客様も多い」
マードックさん。凄く侮れない。まさしく隠れた情報屋さんだ。そうか、ブレイドさんは昔からの馴染みだから、マードックさんに調査をお願いしてたんだ。
私はブレイドさんの事をチラ見する。過去の栄光も捨てたもんじゃないな。今はただの呑んだくれのおじさんだけど……。
「エルン。お前、今オレに対して失礼な事考えてるな?顔に出てるぞ?あと言っておくが、お前はすぐ顔に出る。バカ正直者だから覚えておけな」
「正直者?それなら私はいい人じゃないですかブレイドさん!そんな人がそんなこと考えますか?」
そう言って私は思い切りブレイドさんを睨みつける。またバカにしてきたよこのおじさん!もう嫌い!
「あっはっはっ!言われたなダンナ。まぁダンナ達が仲がいいのは分かったから、オレの話を聞いてくれ。まず前提として、ライゼンバッハ帝国の第三皇女は存在する。これは間違いない」
そうか、依頼がデマである可能性はなくなったということか。その情報が得られるだけでも大きい。
「でだ。なんでライゼンバッハ帝国は今まで存在を隠していたはずなのに、その第三皇女を高額な懸賞金をかけてでも探さないといけないのかと言うとだな、どうやら《《王家の秘宝》》を探しているらしいんだ」
「王家の秘宝ですか?」
「ああ。その王家の秘宝は、王妃から第三皇女に渡される由緒正しき聡明な物らしい。だから帝国側も必死になって探していると言うわけだな」
王家の秘宝か。どんなものなんだろう?ん?というかそういう物って、第一皇女とか第一皇子に渡されるのが普通なのでは?なぜ存在すら隠されていた第三皇女に渡されたのだろうか……謎だ。
「ああ。それについては今から説明してやるよ、エルンちゃん」
え。……私何も言ってませんけど?私って心の声が外にダダ漏れてるのかな……?それともブレイドさんの言う通り、顔に全部出てたりして……嫌だ!ブレイドさんなんかに言われたことを認めたくない!
「その王家の秘宝は、代々『《《護るもの》》』とも言われているらしい。第三皇女はライゼンバッハ帝国がわざわざ隠すほどの重要人物だから、第三皇女が持っているのかもな」
「なるほどな。大体分かった。それで、その王家の秘宝って言うのは何なんだ?」
「ペンダントだ。真ん中に大きな《《アクアマリン》》をあしらったものらしい。それでここからが重要な情報なんだが。その王家の秘宝を身に着けた女性を見たという噂が、西の山奥の村『ゴーバーン』で出ている。そして、ライゼンバッハ帝国の第一皇子も単身でそこを探していると言う情報もあるな」
そんな山奥の村にわざわざライゼンバッハ帝国の皇女様が?しかもこのローゼンシャリオ王国に一体何のようなのか……それとも、もうライゼンバッハ帝国には居場所がないとか?
「まぁ、今分かるのはそのくらいだな。あとはダンナたちが決めたらいい」
「ああ。いつも助かる。お代はここに置いておくぞ」
「いや、今回はタダでいいぜ。こんなに楽しそうなダンナを久しぶりに見ることが出来たからな。エルンちゃん、ダンナを頼むな。あとはメンテナンスがてら遊びに来てくれ。ダンナの恥ずかしい過去とか話してやるからよ!」
「ぜひぜひ!毎日でも来ますよ!」
私は魔法装具のお礼をマードックさんに言って店を後にする。やっぱりさっき話のあったゴーバーン村に行くべきだよね?
「エルン。もしゴーバーン村に行くつもりなら、お前がミーユを説得しろ。それもリーダーとしての務めだからな」
「分かってます!これでも私はリーダーなんですから、そのくらい言われなくてもやりますよ!」
「お前は本当に、口だけは達者だな」
また嫌みか。懲りないなこのおじさんは。
……いいでしょう!それなら私にも考えがあります!
やられっぱなしの『便利屋』だと思ったら大間違いだからね?実はさっきのマードックさんとの会話、キッチリ聞こえてましたから!
私はニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべ、ブレイドさんにおそらく一番聞かれたくないであろう弱点を突いてみることにした。
「あの~ブレイドさん?さっきマードックさんが口を滑らせたの、バッチリ聞こえちゃったんですけどぉ……『シャーリー』さんて誰ですか?もしかして昔の彼女ですか?」
「……お前、聞こえてたのか」
「ふふん!図星ですね?なになに、そんな不器用で口の悪いおじさんを好きになってくれた、よっぽど物好きな元カノさんですか?それとも、毎日昼間からお酒ばっかり飲んでるから呆れられてフラれちゃったとか?あーあ、ブレイドさんにもそんな甘酸っぱい青春があったんですね~!聞きたいなぁ~!」
私はブレイドさんが顔を真っ赤にして「うるせぇガキ!」と怒鳴ってくるのを期待して、わざとらしく冷やかした。
しかし、予想に反してブレイドさんはピタリと足を止め、怒るどころか深く、ひどく重たい溜息をついた。
そして振り返ったその顔は、見たこともないほど暗く、沈んでいた。
「……シャーリーは彼女じゃない。かつて『閃光』で一緒に戦っていた、オレの大切な仲間だった女だ」
「え。……だった?引退でもしちゃったんですか?」
ブレイドさんは、遠くを見るような目で、ポツリと呟いた。
「……死んだよ。オレのせいでな」
その短い言葉が、冷たい氷の刃のように私の胸に突き刺さった。
えぇ……やばっ……。
私の顔から、サッと血の気が引いていくのがわかった。心臓が嫌な音を立ててドクンと跳ねる。
からかってやり返してやろうと軽い気持ちで踏み込んだ場所は、絶対に触れてはいけないブレイドさんの記憶。
なんて馬鹿なんだろう私。自分の浅はかさが恨めしい。さっきまでのヘラヘラとふざけた態度を全力で殴り飛ばしたい。
いたたまれない重苦しい空気の中、私は足元に視線を落とし、ギリッと唇を噛んだ。
「ご、ごめんなさい……私、そんなつもりじゃ……本当に、ごめんなさい……っ」
喉の奥がヒュッと鳴り、強烈な罪悪感でみるみるうちに視界が滲んでいく。今すぐ地面に穴を掘って埋まりたかった。
すると――俯いて震える私の頭の上に、ポンッ、と重くて温かい手が乗せられた。
「……だからエルン。……お前は絶対死ぬなよ?」
「あっ……ブレイドさん……」
ブレイドさんは悲しい顔で少しだけ微笑みながら、それだけ伝えると、私の先をそのまま歩いていく。
私はその言葉を聞いて、ブレイドさんが私にそのシャーリーさんを重ねている事が痛いくらいに分かった。だからこそ、私にあんなに厳しく、危険な目に遭わないように口うるさく言っていたんだ。
その不器用な態度の中に、私の事を心から大事にしてくれている優しさが痛いほど伝わっていた……。




