3. アクアマリンのペンダント。笑顔の裏に隠された過去と罪悪感
3. アクアマリンのペンダント。笑顔の裏に隠された過去と罪悪感
――光の差し込む美しい庭園。
(ねぇ。これをあなたに差し上げますわ)
(え?)
(これはライゼンバッハ王家に伝わる、秘宝なの。私とお揃いのアクアマリンのペンダントなのよ?あなたに持っていてほしいの)
(こんな大切なもの、私に……?)
(大切だから。あなたに渡しますのよ?)
(……ありがとうございます。大切にしますね)
そこで2人の少女は、白い靄がかかったかのようにふっと消える。次に気づいたときはいつもの安宿の部屋、いつもの見慣れた天井の景色だった。
ふと時計を確認すると、針はいつもの時間を指している。
「また……あの夢か……」
その少女は深い溜息をつきながら、重い体を起こして支度をし始める。鮮やかなピンクの髪を今日の気分の髪型にして着替える。そして最後に、シャツの胸元へ隠すように、中央に大きな《《アクアマリン》》をあしらった銀色のペンダントを身に付ける。肌に触れる石の冷たい感触が、彼女の胸の奥をギュッと締め付けた。
それは彼女にとって、絶対に手放せない大切なもの。そして同時に、忘れてはならない『罪悪感の象徴』でもあったから。
そしていつもと同じように、鏡の前で完璧な笑顔を作ってから部屋を出ていく。
ただひとつだけ、いつもとは違う。
ギルドへ向かう足取りが鉛のように重い。自分が自分でいるためには、皇女探しの依頼には深く関わってはいけない。でも、自分を信じて仲間に誘ってくれたエルンたちを裏切りたくはないと言う気持ちもある。そんな葛藤が、不安定な感情を押し潰してくる。
おそらく、昨日の感じなら勘のいいブレイドは、自分の発言が嘘だと見抜いているだろう。もしかしたら……それをエルンたちに話していて、今日は仲間全員に問い詰められるかもしれない。そんな不安もある。
そう、その鮮やかなピンクの髪の少女・ミーユは、かつてないほどに迷っているのだ。
◇◇◇
ローゼンシャリオのギルド。今日はいつもより少し早めに来た。ミーユに直接聞くことがあったからだ。でも、同じく早く来ていたブレイドさんとアティに止められてしまった。
アティは『不器用な嘘をつくくらいですから、無理に聞かないほうがいいと思います。このまま一緒に依頼を続けていれば、いつか自然と、ミーユさんが隠している事もわかるんじゃないですか?』と言っていた。
普段はハンマーで即解決しようとするアティのくせに、こういう時は妙に大人で優しいのだ。
ミーユがこの依頼を拒絶する感じは、絶対と言っていいほど何か重要な秘密を知ってると推測できる。ここは慎重に。いつも通り、いつも通り。そこへ、勢いよく扉が開いてミーユがやってくる。
「おはよう!あれ?今日は私が最後なの?マジか、いつも遅刻ギリギリのエルンより遅いとは……」
「私だって早く来るときはあるよ!リーダーの威厳ってやつ!」
「そうだっけ~?」
ミーユはいつも通りに明るく笑って見えるが、昨日のブレイドさんの言葉を聞いたあとだと、なんとなく声のトーンが少し無理をしているようにも、元気がないようにも見える。
「今日はどうしますか、エルンさん?」
「えっと……とりあえず北のザルガン洞窟で銅鉱石を取ってくる納品依頼があるから、その依頼のあと、午後から皇女の情報を集めようか」
「なら私は洞窟に行くね!あそこなら魔物もそこまで強くないし、銃の的当てにはちょうどいいからさ!」
案の定、ミーユは当然の如く皇女探しを避けてくる。この頑なに避けているのは、さすがに不自然で過剰すぎのような気もするけど。
「それなら私も一緒に行きますよ、ミーユさん。洞窟は暗いですし、1人じゃ何かあった時心配ですからね」
「えっ、アティが?1人でも全然大丈夫だけど?」
「ミーユ。アティの言う通りだ。依頼を軽んじるな。アティは前衛だ、しかも回復魔法も使える。後衛のお前にピッタリだろ?一緒に行け」
少し腑に落ちない様子のミーユだったけど、押し切られる形でアティと共に北のザルガン洞窟へ向かうことになった。
という事は、私はブレイドさんと一緒に行動するのか。はぁ……気がのらないな。
「ああ?また文句か、顔に出てるぞ」
「出てません。私は文句を言った事がありません。心が広いので」
「まぁいい。エルン、行くぞ」
「行くってどこに!?あっ、待って下さいよブレイドさん!」
ブレイドさんはそう私に告げると、早々とギルドを出て先に歩いて行ってしまう。もう!何だよあのおじさんは!私にも心の準備ってものがあるんだから!女の子をエスコートする気ゼロなんだからね!
そしてミーユとアティが北のザルガン洞窟の依頼を行っている中、私はほとんど強引にブレイドさんに連れられて街を歩いていた。本当に強引だよこの人。
「あの……大丈夫ですかね?ミーユ」
「アティがついて行っているだろう、心配するな。アティは回復魔法も使えるからな」
「いや、そういう物理的な危険のことじゃなくて、精神的なことなんですけど?話の流れでわかりません?」
「お前な。大丈夫なら皇女探しを率先してやるだろう?今のオレたちにできることは特に何もない。それにミーユだって16歳なら、もう自分で背負い込んで考えられる歳だろう。あいつが自分から動かなきゃ、何も始まらん」
それはさすがに冷たい気もするけど。まぁブレイドさんの言っていることは、今回に限っては正論だから私も何も言わない。今回のはね。
そのまま私はブレイドさんに連れられて、目的地を言われぬまま、王都のメインストリートから外れた人気のない路地に差し掛かり、薄暗い石畳の道を進んでいく。
えっ……嘘でしょ?もしかして私のこと、人目につかない場所で襲おうとしてる!?
まぁ、私が超絶美少女だから変な気を起こしちゃうのも仕方ないとは思うけど、こういう展開は全く望んでないからね!もし指一本でも触れてこようものなら、容赦なく『相殺の調停』を発動して、身を守るんだから!
「あの、ブレイドさん?」
「今度は何だ?」
「今どこに向かっているんですか?なんか人気のないスラムみたいなところに向かってますけど……?」
「お前に会わせたい奴がいる。とにかく黙ってついてこい」
いやいや!この人いつも大事なことは言わないんだけど!『ついてこい』とか格好つけていつも言ってるけど、そういう肉食系男子的なの今流行ってないからね!言葉足らずで優しくない男は嫌われるんだから!
と心の中で思いっきり文句を言いつつも、私は仕方なくブレイドさんが「会わせたい人」がいるというので、そのまま警戒しながら後についていく。
しばらく入り組んだ路地を歩いていくと、一軒の古びた怪しい店の前にたどり着いた。
「ここだ。入るぞ」
凄く古い……いや、レトロを通り越して廃墟みたいな店だなぁ。看板の文字は錆びて読めないし、正直店の前には商品というより「ガラクタ」と呼んだ方がいいものが山のように転がっている。欠けた歯車、謎の魔導具の残骸、変な色の液体がこびりついた空き瓶。これも売る気なのかな?
というか、そもそもこの店はナニ屋さん???
あまりにも古い外観と怪しすぎる雰囲気に、私は入り口の前でただ呆然と立ち尽くしていたのだった。




